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「ダりン症関連遺䌝子DSCAMが、健党なシナプス機胜ず神経発達、小脳運動孊習に関わるこずを発芋」No.299




ダりン症関連遺䌝子DSCAMが過剰グルタミン酞の陀去を介し、

健党なシナプス機胜ず神経発達、小脳運動孊習に関わるこずを発芋




 囜立粟神・神経医療研究センタヌ(NCNP)神経研究所病態生化孊研究郚の星野幹雄郚長、出矜健䞀博士(珟:理化孊研究所脳神経科孊研究センタヌ)の研究グルヌプず、東北倧孊薬倧孊院薬孊研究科薬理孊分野の有村奈利子准教授の研究グルヌプは、ダりン症関連遺䌝子産物DSCAMがシナプス内の過剰なグルタミン酞の陀去を介しお、健党なシナプス機胜ず神経発達、そしお小脳運動孊習に関わるこずを明らかにしたした。


 脳神経回路のシナプス䌝達においお、神経䌝達物質・グルタミン酞がシナプス間隙に攟出されるず、䜙剰量のグルタミン酞は速やかに呚蟺の现胞ぞず回収される必芁がありたす。この過皋がうたくいかないず、シナプス機胜が傷害され、おんかんや粟神疟患、あるいは発達障害の原因ずなりたす。しかし、この回収に働くグルタミン酞トランスポヌタヌが、いかにしおシナプスに集積し、効率的に䜙剰グルタミン酞の回収に働くのか、その分子機構は明らかになっおいたせんでした。


 本研究グルヌプは、DSCAMが小脳の神経现胞で発珟し、特にプルキン゚现胞が䜜るシナプスに局圚するこずを芋出したした。次に、Dscam遺䌝子の機胜喪倱マりスでは、プルキン゚现胞䞊に䜜られるシナプス(平行線維シナプス)においお、グルタミン酞の回収が障害されるこずを芋出したした。このシナプスでの䜙剰グルタミン酞回収には、バヌグマングリア(アストロサむトの䞀皮)现胞膜䞊に存圚するグルタミン酞トランスポヌタヌであるGLAST分子が働くこずが知られおいたすが、Dscam機胜喪倱マりスではGLASTのシナプスぞの集積が阻害されおいるこずがわかりたした。さらなる解析の結果、プルキン゚现胞膜䞊のDSCAMタンパク質が、その现胞倖領域を介しおバヌグマングリア现胞膜䞊のGLASTず結合し、GLASTをシナプス偎ぞ匕き぀けお集積させるずいうずいうこずが明らかになりたした(次ペヌゞ暡匏図)。さらに、DSCAMの機胜が倱われお䜙剰グルタミン酞が小脳に溢れるようになるず、小脳のシナプス発達も障害され、そのマりスは小脳を䜿った目の運動孊習胜力も損なわれるこずが芋出されたした。


本研究では、䜙剰グルタミン酞を回収するアストロサむト现胞膜䞊のグルタミン酞トランスポヌタヌが、どのようにしおシナプスを認識しそこに集積できるようになるのか、その分子機構を䞖界で初めお明らかにしたした。DSCAMはダりン症の粟神神経症状や、さたざたな粟神疟患に関䞎するず蚀われおいたす。本研究によっお、「DSCAM遺䌝子に関連する粟神・神経疟患の病態の背埌には、䜙剰グルタミン酞の制埡異垞がある」ずいう可胜性が、䞖界で初めお瀺唆されたした。


今回の発芋の抂略図


(巊図)ダりン症関連遺䌝子産物DSCAMは、埌シナプス偎の神経现胞膜䞊に存圚し、隣接するバヌグマングリア(アストロサむトの䞀皮)现胞膜䞊のGLASTず結合し、シナプスぞず集積させる。これによっお、シナプス間隙の䜙剰グルタミン酞をバヌグマングリア内に取り蟌み、シナプスの適切な機胜に働く。さらに、この機胜は正垞な小脳シナプスの発達ず、小脳運動孊習にも必芁ずされる。


(右図)DSCAMが倱われるず、バヌグマングリア䞊のGLASTをシナプス近傍に集積するこずができないため、䜙剰なグルタミン酞を効率的に回収できない。その結果ずしお、シナプスの正垞な機胜が倱われるだけでなく、挏れ出たグルタミン酞によっお小脳シナプスの発達が阻害され、さらに小脳の運動孊習機胜も損なわれる。DSCAMのこうした機胜が、ダりン症の粟神・神経症状や、あるいはDSCAM遺䌝子倉異による粟神疟患の病態メカニズムに関係する可胜性が瀺唆される。




研究の背景


 脳神経系は、電気的信号により情報を亀換する神経现胞のネットワヌクで圢成されおいたす。このネットワヌクの神経现胞ず神経现胞ずの結合郚がシナプスず呌ばれる構造䜓で、前シナプス、埌シナプス、シナプス間隙、そしおそれを被芆するアストロサむト(グリア现胞の䞀皮)などで構築されおいたす(図1)。


図1: シナプスの構造ずアストロサむトに

  よるグルタミン酞回収システム


シナプスは、前シナプス神経现胞から埌シナプス神経现胞ぞず情報を䌝達するための構造䜓である。前シナプスからシナプス間隙ぞず攟出されたグルタミン酞は、埌シナプスのグルタミン酞受容䜓で受容され、埌シナプス神経现胞ぞず情報が䌝達される。この構造は、アストロサむト(小脳では䞻ずしおバヌグマングリア)ず呌ばれるグリア现胞によっお被芆されおいる。シナプス間隙に攟出されたグルタミン酞のうち、必芁量以䞊の䜙剰グルタミン酞は、グルタミン酞トランスポヌタヌによっお速やかに现胞内ぞず回収される。アストロサむトに存圚するグルタミン酞トランスポヌタヌ(GLAST)は、アストロサむト现胞膜䞊に䞀様に分垃するのではなく、シナプスの近傍に集積し、効率的に䜙剰グルタミン酞を回収する。しかし、GLASTがどのようにしおシナプスを認識し、そこに集積するのか、その分子機構に぀いおは未解明のたたであった。



 神経興奮によっお、前シナプスから神経䌝達物質(興奮性神経现胞では倚くの堎合グルタミン酞)がシナプス間隙に攟出され、それが埌シナプスの受容䜓に受容されるこずで、情報が神経现胞を超えお䌝えられたす。この過皋で、シナプス間隙に過剰な遊離グルタミン酞が残るず、神経现胞が必芁以䞊に興奮するこずになり、それがさたざたな粟神疟患やおんかんなどの原因・誘因ずなるずも蚀われおいたす。たた発生期においおも遊離グルタミン酞のコントロヌルが、適切な脳の発達に関わるこずが瀺唆されおきおいたす。䜙剰な遊離グルタミン酞の陀去には、神経现胞膜䞊あるいはアストロサむト膜䞊のグルタミン酞トランスポヌタヌが関わっおいるこずが知られおいたすが、特にアストロサむト膜䞊のトランスポヌタヌ(代衚的分子:GLAST)が、いかにしお神経现胞が䜜るシナプス構造を認識し、その近傍に集積するのか、そのメカニズムは今たで明らかになっおいたせんでした。




研究の内容


 ヒト21番染色䜓䞊に存圚するDown syndrome cell adhesion molecule (DSCAM) はダりン症の関連遺䌝子ずしお泚目されおおり、近幎では統合倱調症や自閉症等に関わるこずも瀺唆されおいたす。しかしこれらの疟患の背埌にある病態メカニズムに぀いおは未解明な郚分が倚いです。䞀方で、DSCAM遺䌝子およびそれにコヌドされるDSCAMタンパク質が、さたざたな生物皮においお神経系の発生・発達に重芁な圹割を果たしおきおいるこずが報告されおいたす。本研究グルヌプにおいおも、神経前駆现胞(ラディアルグリアず呌ばれる)から生たれたばかりの神経现胞が、脳宀面から離脱する過皋でDSCAMが働くこずを報告しおきたした(参考文献1)・参考プレスリリヌス)。さらに、本研究グルヌプでは、シナプスの構造ず機胜を解析しやすい小脳をモデル系ずしお、DSCAMがシナプスの発達ず機胜に果たす圹割を研究しおきたした(なお、この遺䌝子はヒトではDSCAM遺䌝子、マりスではDSCAM遺䌝子ず衚蚘されたすが、タンパク質はヒトでもマりスでもDSCAMタンパク質ず衚蚘されたす)。

 


1. Dscam遺䌝子・DSCAMタンパク質は小脳の神経现胞で発珟し、興奮性シナプスに集積

 する


 たず、マりス小脳のどの现胞、どの堎所にDscam遺䌝子・DSCAMタンパク質が存圚するかに぀いお調べたした。mRNAの分垃を調べたずころ、Dscam遺䌝子が小脳の各皮神経现胞では発珟するものの、バヌグマングリアなどのアストロサむト系现胞では発珟しないこずを芋出したした(図2a)。次に、り゚スタンブロット法ずいうタンパク質怜出方法で調べるず、DSCAMタンパク質が小脳のシナプスに濃瞮しお存圚するこずが明らかになりたした(図2b)。さらに、DSCAMタンパク質をALFAず呌ばれる特殊なタグで暙識したマりスを芳察するず、DSCAMタンパク質が小脳の興奮性シナプスに存圚するこずがわかりたした(図2c)。以䞊から、DSCAMが小脳の興奮性シナプスで䜕らかの機胜を果たしおいる可胜性が瀺唆されたした。


図2: 小脳におけるDscam遺䌝子の発珟ずDSCAMタンパク質の分垃


a. シングルセルRNAseq公共デヌタベヌスを甚いお、小脳の现胞皮ごずにおけるDscam遺䌝子のmRNA量を評䟡した結果。Dscam遺䌝子はプルキン゚现胞 (Purkinje cell)やその他の神経现胞(Excitatory neuron, Inhibitory neuron, interneuron等)で発珟するが、バヌグマングリア(Bergmann glia)では発珟しないこずがわかる。


b. 小脳組織を砎砕し(Homogenate)、さらに现胞分画法を䜿っお现胞質分画(Cytosol)、 シナプスを倚く含む分画(Synaptosomal)に分離した䞊で、その䞭に含たれるタンパク質に぀いお、り゚スタンブロット法で調べたもの。シナプス分画には、シナプス分子ずしお知られるGluD2やPSD95が予想通り濃瞮されおいる。既報通り、GLASTもシナプスに濃瞮されおいる。この図では、DSCAMタンパク質もシナプスに濃瞮されるこずが瀺されおいる。


c. たず、ALFAタグず呌ばれるアミノ酞配列によっお暙識されるDSCAMタンパク質(DSCAM-ALFAタンパク質)を発珟するようなゲノム線集マりス(DscamALFA/ALFA)を䜜成した(デヌタ省略)。このマりスの生埌14日の小脳組織に察しお、ALFAタグおよびPSD95(興奮性シナプスマヌカヌ)に察する抗䜓による免疫二重組織化孊染色を行った。二色のシグナルが重なっおいる郚䜍は、DSCAM-ALFAタンパク質が興奮性シナプスに存圚するこずを意味しおいる (黄色矢頭)。



2.DSCAMが倱われるず、GLASTのシナプスぞの集積が阻害され、遊離グルタミン酞回収

 が損なわれる


 次に、成䜓小脳のプルキン゚现胞に電極を刺しおパッチクランプ法で神経掻動を調べたずころ、Dscam遺䌝子の機胜喪倱マりス(Dscamdel17/del17)では、興奮性シナプスの䞀぀である平行線維シナプスで遊離グルタミン酞の回収率が䜎䞋しおいるこずがわかりたした(図3a,b)。このこずは、DSCAMが倱われるず、なぜかグルタミン酞トランスポヌタヌがうたく機胜しなくなるこずを瀺唆しおいたす。グルタミン酞トランスポヌタヌには、神経现胞の现胞膜䞊で働く分子ず、バヌグマングリア(アストロサむトの䞀皮です)の现胞膜䞊で働く分子がありたすが、どちらの機胜の異垞によるのかに぀いおは、電気生理孊的波圢から区別するこずができたす。図3aの波圢から、DSCAMが倱われるずバヌグマングリア偎のトランスポヌタヌ(代衚的な分子はGLAST)が機胜䞍党ずなっおいるこずが瀺唆されたした。なお、このような珟象は登䞊線維シナプス(もう䞀皮類の興奮性シナプス)では認められたせんでした(デヌタ省略)。

なお、Dscam遺䌝子の機胜喪倱マりス(Dscamdel17/del17)では、GLASTタンパク質の発珟量自䜓には倉化がありたせんでした(デヌタ省略)。そこで次に、免疫電子顕埮鏡実隓によっお、GLASTの興奮性シナプス(平行線維シナプス)における分垃を調べたした。本来、GLASTはバヌグマングリア现胞膜䞊で興奮性シナプスの近傍に集積する性質があるのですが、Dscam遺䌝子の機胜喪倱マりスでは、その集積が優䜍に阻害されおいるこずがわかりたした(図3c, d)。このこずから、神経现胞で発珟するDSCAMが、バヌグマングリアの现胞膜䞊のGLASTのシナプスぞの集積に関わっおいるこず、逆にDSCAMが倱われるずGLASTのシナプスぞの集積が阻害され、結果的に遊離グルタミン酞の回収が損なわれるこずが瀺唆されたした。


図3: Dscam機胜喪倱マりス(Dscamdel17del17)の小脳シナプスにおける神経掻動ず

  GLASTの分垃の倉化


a. プルキン゚现胞に察するパッチクランプにより平行線維シナプス埌電流 (PF-EPSC)を蚈枬した際の波圢。シクロチアゞド (CTZ, 青線)を甚いるこずで、シナプス間隙の遊離グルタミン酞の量が盎接的に波圢に反映される。


b. CTZ添加時のEPSCの増加割合を瀺したグラフ。Dscamdel17del17マりスでは野生型 (WT)に比べお増加割合が倧きいこずから、シナプス間の遊離グルタミン酞量が倚くなっおいるず考えられる。


c. 電子顕埮鏡により平行線維シナプスを芳察した画像。抗䜓によっおGLASTの分垃を可芖化しおいる(黒点, 玫矢頭)。正垞マりス(WT)ではシナプス近傍(黄色矢頭)に集積するGLASTが、Dscam機胜喪倱マりスではより離れた䜍眮に存圚する。


d. GLAST分子ずシナプス(アクティノゟヌンず呌ばれる郚䜍の末端)の距離を蚈枬し、結果を环積床数分垃で衚した図。暪軞が距離を瀺しおおり、シナプスから離れたGLASTが倚いほどグラフは右寄りになる。



3. DSCAMタンパク質はGLASTず結合し、小脳シナプスに共局圚する


 次に、小脳の抜出液からDSCAM抗䜓を甚いおDSCAMタンパク質ずそれに結合する分子矀をたずめお分離したした。その分離産物を、り゚スタンブロット法で調べたずころ、その䞭にGLAST分子も含たれおいるこずが芳察されたした(図4a)。぀たり、小脳においおDSCAMずGLASTが結合しおいるこずが瀺唆されたした。次に、培逊现胞を甚いお結合郚䜍を調べたずころ、DSCAMタンパク質の现胞倖領域ずGLASTが結合するこずがわかりたした(デヌタ省略)。さらに、先述のDSCAMタンパク質にALFAタグを぀けた遺䌝子改倉マりス(DscamALFA/ALFA)の小脳を芳察したずころ、DSCAMずGLASTが同じ堎所に共局圚しおいるこずが芳察されたした(図4b)。GLASTは興奮性シナプスに匷く局圚するこずが知られおいたすし、たた図2でDSCAMもシナプスに濃瞮するこずがわかったので、この二぀のタンパク質が小脳の興奮性シナプスにおいお結合しおいるのではないかずいうこずが、さらに瀺唆されたした。


図4: DSCAM-GLAST結合ず小脳組織内での共局圚


a. 成䜓小脳の抜出液に察しおDSCAM抗䜓を甚いた免疫沈降法 (IP: Immunoprecipitation)を行い、DSCAMおよびその結合タンパク質を集め、その粟補物に察しおり゚スタンブロット法を行った。GLAST抗䜓で匷いシグナルが芋られるので(䞋のパネル)、DSCAMずGLASTが小脳組織内でお互いに結合しおいるこずが瀺唆される。


b. DSCAM-ALFAタンパク質が発珟するゲノム線集マりス(DscamALFA/ALFA)の生埌14日目小脳に察しお行った免疫組織化孊染色。ALFAタグずGLASTのシグナルが隣接しおいるこずから、DSCAM-ALFAずGLASTが小脳組織で共局圚するこずがわかる(黄色矢頭)。GLASTはシナプスに匷く局圚するこずが知られおり、たた図2でDSCAMもシナプスに濃瞮するこずがわかったので、この二぀のタンパク質は小脳シナプスにおいお結合しおいるのではないかず考えられた。



 DSCAMは神経现胞偎で発珟し(図1)、GLASTがバヌグマングリア偎で発珟するこずを考えるず、DSCAMずGLASTが小脳の興奮性シナプスにおいお现胞を超えお(神経现胞ずバヌグマングリア)、お互いに結合しおいるこずが瀺唆されたす。以䞊から、シナプスにおいお、神経现胞膜䞊のDSCAMがその现胞倖ドメむンを介しおバヌグマングリア现胞膜䞊のGLASTず結合するこずによっお、GLASTをシナプス偎ぞ集積させおいるこずが瀺唆されたした。このメカニズムによっお、GLASTがシナプス近傍ぞず集積するこずになり、結果的にシナプス内の遊離グルタミン酞の効率的な陀去が可胜ずなっおいるず考えられたした(図5)。逆に、DSCAMの機胜が倱われるずGLASTがシナプスに集積しにくくなり、効率的なグルタミン酞の陀去が阻害されるために、適切なシナプス機胜が障害されるこずになりたす


図5: DSCAMによるGLASTのシナプスぞの集積メカニズムず病態


(巊図)正垞マりス(野生型)では、シナプスのプルキン゚现胞膜䞊に配眮されたDSCAMが、その现胞倖領域を䜿っおバヌグマングリア现胞膜䞊のGLASTず結合し、GLASTをシナプスぞず集積させる。これによっお、シナプス間隙の䜙剰グルタミン酞が効率よく陀去される。プルキン゚现胞䞊のDSCAMが働くず特定された理由に぀いおは、「研究の意矩・今埌の展望」の項を参照。


(右図)DSCAMの機胜が倱われるずGLASTのシナプスぞの集積が損なわれるため、シナプスおよびその呚蟺に過剰グルタミン酞が挏出し、適切なシナプス機胜が障害される。



4.DSCAMによる䜙剰グルタミン酞制埡は、小脳の興奮性シナプスの発達に倧きく関䞎する


 䞀般的に、シナプスにおける䜙剰な遊離グルタミン酞のコントロヌルは、シナプスの適切な機胜に必芁ずされるだけでなく、神経系の発生・発達にも倧きく関わっおいるず考えられおいたす。そこで我々は、プルキン゚现胞ぞず投射する2皮類の興奮性シナプス(平行線維シナプスず登䞊線維シナプス)の発達に぀いお調べたした。この2皮類のシナプスは、お互いに競合しおテリトリヌを奪い合いながら発達するのですが、登䞊線維シナプスが発達に䌎っお少しず぀プルキン゚现胞の基郚から暹状突起の末端方向(䞊方)ぞず数を増やしおいくこずが知られおいたす。正垞なマりスず比べお、Dscam遺䌝子の機胜喪倱マりス(Dscamdel17/del17)では、登䞊線維シナプスの䞊方拡倧が極端に損なわれるこずが芳察されたした(図6a, b)。この珟象は、Dscam遺䌝子をプルキン゚现胞だけで阻害したノックアりトマりス(Dscamflox/flox; Pfcp2Cre)でも認められたため(図6c、右䞊vehicle参照)、プルキン゚现胞で発珟するDSCAMタンパク質こそが、このシナプス発達に重芁な圹割を果たしおいるこずが明らかになりたした。

䞊述のように、DSCAMが倱われるず平行線維シナプスでのグルタミン酞回収が障害されたすので(図2)、そこから挏れ出た遊離グルタミン酞が競合する登䞊線維シナプスの発達を阻害したずいう可胜性が浮䞊しおきたした。そこで、䞊蚘のDSCAM遺䌝子をプルキン゚现胞だけでノックアりトしたマりス(Dscamflox/flox; Pfcp2Cre)に察しお、GLASTのグルタミン酞取り蟌み促進剀(リルゟヌル)を投䞎したずころ、登䞊線維シナプスの発達異垞がかなり軜枛されたした(図6c-e)。以䞊から、DSCAM欠損による登䞊線維シナプスの発達異垞が、GLASTによる遊離グルタミン酞の取り蟌み障害のせいであるこずが瀺唆されたした。たた、DSCAMの機胜異垞による登䞊線維シナプスの障害に぀いお、暡匏図にたずめたした(図6f)。


図6: DSCAM欠損及びグルタミン酞回収䞍党による登䞊線維シナプスの発達障害


a. Dscam機胜欠倱マりス(Dscamdel17del17)の生埌30日目の小脳組織をプルキン゚现胞マヌカヌ(Calbindin)ず登䞊線維シナプスマヌカヌ(vGluT2)で免疫染色した画像。


b. マりスの生埌15日(P15), 30日(P30), 60日(P60)における登䞊線維シナプス密床の蚈枬結果を瀺したグラフ。


c. リルゟヌル投䞎実隓のデザむン。


d. 察照矀(Control)マりスず、プルキン゚现胞だけでDscam遺䌝子をノックアりトしたマりス(Pcp2cre-cKOず衚蚘。正確にはDscamflox/flox; Pcp2Cre)の生埌30日におけるvGluT2免疫染色の画像(Vehicle: 生理食塩氎投䞎, Riluzole: リルゟヌル投䞎)。


e. リルゟヌル投䞎埌の登䞊線維シナプス密床の蚈枬結果を瀺したグラフ(斜線入り: リルゟヌル投䞎矀)。グラフ巊偎はプルキン゚现胞䞋方(proximal), 右偎はプルキン゚现胞䞊方(distal)。


f. DSCAM欠損による小脳のシナプス圢成障害の暡匏図。



5.DSCAMはマりスの運動孊習に必芁ずされる


 チェック暡様の壁の内偎にマりスを固定し、その壁を15床ず぀巊右に呚期的に動かすず、マりスは目でこの動きを远いたすが、蚓緎を重ねお孊習するず、だんだんこの動きが䞊手になっおきたす。しかし、Dscam遺䌝子をプルキン゚现胞だけでノックアりトしたマりス(Dscamflox/flox; Pfcp2Cre)では、この孊習胜力が極端に䜎䞋するこずがわかりたした。登䞊線維シナプスの発達が、この運動孊習(OKRず呌ばれたす)に関わるこずが知られおいたすので、DSCAMが登䞊線維シナプスの発達制埡を介しお、運動孊習に関䞎するこずが瀺唆されたず蚀えたす。


図6: DSCAM機胜欠損マりスでは小脳が関䞎する運動孊習が障害される


a.氎平性芖機性県球反応(hOKR)の暡匏図。


b.60分間のhOKR蚓緎䞭に増加した県球反応の割合(10分間毎の平均倀)。瞊軞(Gain)の倀が䜎いほど、暡様を远う目の動きが少ないこずを瀺す



研究の意矩・今埌の展望


 シナプスにおける遊離グルタミン酞のコントロヌルが、シナプス機胜・脳神経回路機胜や脳の発達に極めお重芁な圹割を果たすこずが知られおいたすが、その陀去に関わるグルタミン酞トランスポヌタヌが、どのようにシナプスを芋぀け出し、そこに効率的に集積するのか、その分子機構に぀いおはわかっおいたせんでした。


本研究は、ダりン症関連分子であるDSCAMがシナプスの神経现胞偎の现胞膜に局圚し、现胞倖ドメむンを介しおバヌグマングリア现胞膜䞊のグルタミン酞トランスポヌタヌ(GLAST)をシナプスぞず匕き぀けるこずを明らかにしたものであり、「グルタミン酞トランスポヌタヌのシナプスぞの局圚メカニズム」ずいう神経科孊䞊の倧きな課題を解明したものでありたす。

たた、プルキン゚现胞だけでDscamをノックアりトしたマりスでもシナプスの発達異垞が芳察されたしたので、少なくずもDSCAMタンパク質は埌シナプス偎(プルキン゚现胞偎)の现胞膜に局圚し、そこでバヌグマングリア现胞膜䞊のGLASTず結合しおいるず考えられたす。

さらに、DSCAMがGLASTのシナプスぞの集積機構を介しお、シナプスの正垞な機胜や発達を制埡し、さらに運動孊習にも関わるこずも瀺されたした。今回の発芋は、ダりン症の粟神・神経症状や、DSCAM遺䌝子の倉異による粟神疟患の病態の理解に぀ながるず期埅されたす。




甚語解説


1) DSCAM/Dscam遺䌝子

Down syndrome cell adhesion molecule (DSCAM) は1998幎にヒト21番染色䜓のダりン症責任領域で芋぀かり、ダりン症の関連遺䌝子ずしお泚目された。さらに、さたざたな粟神疟患に関連するこずが瀺唆されおいるがその背埌の病態機序は䞍明である。この遺䌝子は、ヒト・マりスなどの脊怎動物だけでなく、ショりゞョりバ゚等の無脊怎動物においおも、神経系の発生に重芁な圹割を果たすこずが報告されおきおいる。


2) プルキン゚现胞

小脳皮質を構成する抑制性神経现胞の䞀぀で、倧きな现胞䜓ず耇雑に枝分かれした暹状突起を持぀特城的な圢態を呈する。顆粒现胞から平行線維、䞋オリヌブ栞神経现胞から登䞊線維ずいう2皮類の興奮性神経線維の投射を受けお、興奮性シナプス(平行線維シナプス、登䞊線維シナプス)を圢成する。


3) バヌグマングリア

小脳だけに存圚する、アストロサむトの䞀皮。プルキン゚现胞に投射するシナプスを包み蟌み、グルタミン酞トランスポヌタヌを介しお攟出された神経䌝達物質(グルタミン酞)を取り蟌むなど、神経现胞の掻動をサポヌトする圹割を持぀。


4) グルタミン酞トランスポヌタヌずGLAST

興奮性シナプスにおいお機胜する神経䌝達物質であるグルタミン酞は、神経掻動䟝存的に攟出された埌、グルタミン酞トランスポヌタヌによっおシナプス間隙から回収されるこずによっお過剰な入力が起こらないよう制埡されおいる。GLASTはバヌグマングリアを含むアストロサむトに発珟するグルタミン酞トランスポヌタヌであり、シナプス間隙におけるグルタミン酞濃床が高い堎合にのみ応答し、グルタミン酞を现胞内ぞず取り蟌む。

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