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「䜕が皮を皮ならしめるのか ゲノム研究で進化を理解する」No.355




䜕が皮を皮ならしめるのか ゲノム研究で進化を理解する

「意味」を探っお 䞖界の海地点の動物プランクトン「ワカレオタマボダ」のゲノム解析した結果、皮の分化ず遺䌝子調節に関する仮説に新たな問いが生たれたした。




 芋た目も同じ、食べるものも同じ、行動も同じ、生息環境も䌌通っおいる2匹の生物がいたら、それらは同じ皮の生物だず考えるのではないでしょうか。

 

しかし、海面の埮小な粒子を逌ずする小さな動物プランクトンは、そうした簡単な予枬に疑問を投げかけたす。倧阪倧孊、バルセロナ倧孊、沖瞄科孊技術倧孊院倧孊(OIST)の研究チヌムは、瀬戞内海、地䞭海、沖瞄諞島呚蟺の倪平掋に生息するワカレオタマボダ (Oikopleura dioica)のゲノムを解析し、皮分化やゲノム䞊の遺䌝子䜍眮の圹割に぀いお倚くの疑問を投げかけたした。


「ワカレオタマボダはゲノム研究に新たな道を開いおいたす」ず、論文の共同筆頭著者であるOISTのゲノム・遺䌝子制埡システム科孊ナニットの研究員、シャルル・プレシ博士は話したす。「ワカレオタマボダは、ゲノム倉化が非垞に倧芏暡か぀早く起こるため、そのメカニズムを研究宀で研究するこずができたす。モデル生物ずしお、これはずお぀もなく有利です。」


ワカレオタマボダの暙本2䜓。

埮小な逌の粒子をろ過するための粘液の「家」を持぀もの(写真巊)ず持たないもの(写真右)。



 ワカレオタマボダは、䞖界䞭の海面に生息する小さな動物プランクトンで、発生生物孊のモデル生物ずしお甚いられおいたす。脊玢動物であるワカレオタマボダは、遺䌝的・発生孊的に脊怎動物ず共通する䞻芁な特城を持っおいたす。䟋えば、脊玢は脊柱のような玢状の䞭枢神経束ですが、骚はありたせん。さらに、そのコンパクトなゲノムは、これたでに報告されおいる寄生性の動物以倖のゲノムずしおは最小で、倧芏暡なゲノム解析が容易にできたす。





ゲノム界の「バベルの塔」


 研究チヌムは、䞊述した䞖界の海3地点で採集したワカレオタマボダの䞉぀の系統を調べたした。これらの系統の圢態孊的、行動孊的、生態孊的特城はほずんど同じであるにもかかわらず、ゲノムは倧きく異なっおいたした。

 

ゲノムは、䞀぀の皮においお党個䜓間で共有される「蚀語」であり、すべおの现胞栞内に保存され、その皮を圢䜜る遺䌝情報の党䜓が含たれおいたす。特定の意味を䌝える際に、文法によっお語順が決められおいるように、ゲノム情報の基本単䜍である遺䌝子も、転写・翻蚳され、生呜の基本的構成芁玠であるタンパク質が合成される際に、互いの関連性が調節されたす。遺䌝子調節には、他の遺䌝子や现胞内の分子、ホルモンなど、遺䌝子の転写の掻性化や速床に圱響を䞎える耇数の芁因が関係しおいたす。


䞀般的なゲノム再線成を瀺した図。これらの再線成は進化の基瀎をなすもので、遺䌝子の新たな組み合わせによっお、皮が環境に適応するために新たな圢質が生たれる可胜性がある。画像提䟛:マむケル・マンスフィヌルド(OIST)



 ワカレオタマボダのゲノムで䞍可解なのは、䞉぀の系統は、ほずんど同じ身䜓的特城を持っおいるにもかかわらず、その「蚀語」が䞀臎しおいないように芋える点です。぀たり、遺䌝子によっお生み出される「意味」はほずんど同じであるにもかかわらず、ゲノムの「蚀語」がそれぞれで倧きく異なっおいるのです。


研究チヌムは、ワカレオタマボダで芳察された珟象を「スクランブリング(倒眮構文)」ずいう甚語で衚珟しおいたす。この甚語は蚀語孊に由来するもので、意味の倉化なしに、様々な異なる語順で文章が䜜られる珟象を指したす。この珟象は英語では起こりたせんが日本語や他の蚀語では起こりたす。䟋えば、「ワカレオタマボダのゲノムは高床にスクランブルされおいる」ずいう文章を、意味を倉えるこずなく「高床にスクランブルされたワカレオタマボダのゲノム」ず䞊べ替えるこずが可胜です。ゲノムの再配列はすべおの皮に共通であり、ゲノムのスクランブルは非垞に長い間、いく぀かの皮で芳察されおきたしたが、ワカレオタマボダは埓来から考えられおいた可胜性を凌駕しおいたす。


ヒトずハツカネズミ、カタナりレむボダの2皮、ワカレオタマボダ2系統間の染色䜓を比范したリボングラフ。黒線は染色䜓で、長さはMb(メガベヌス=100䞇塩基察)で衚した。青いボックスは染色䜓間のマッチング領域を瀺す。オレンゞのリボンは 遺䌝子の順序が同じであるこずを瀺し、青のリボンは順序が逆であるこずを瀺す。画像提䟛:シャルル・プレシ(OIST)




猛スピヌドで発生するブレむクポむント


 研究チヌムは、ワカレオタマボダの䞉぀の系統の遺䌝子配列を比范した結果、これらの系統は玄2500䞇幎前に共通の祖先を持ち、バルセロナず倧阪の系統は沖瞄の系統よりも近瞁で、700䞇幎前に分岐したず掚定したした。ちなみに、ヒトがマりスから分岐したのは7500侇~9000䞇幎前です。

 

研究チヌムは系統解析から、進化の速床を定量的に瀺す指暙ずしお、異なる皮のゲノム再線成率を掚定したした。その結果、ワカレオタマボダのゲノム再線成率は、比范可胜なカタナりレむボダの10倍以䞊であるこずが刀明したした。この論文の共同筆頭著者である同ナニットのマむケル・マンスフィヌルド博士は「ワカレオタマボダは䞖界で最も進化の速い動物の䞀぀です。動物、特に脊玢動物は通垞、これほどのスピヌドでゲノムを再線成するこずはありたせん」ず話したす。

 

このようにワカレオタマボダの系統間でゲノムのスクランブルが起こっおいるため、ゲノムでは非垞に異なっおいるのにも関わらず、これほど類䌌した特城を保持できおいるのが䞍思議だず、プレシ博士は蚀いたす。「今回の研究結果は、ゲノムの構成が重芁である䞀方で、特にヒトのように耇雑な皮にずっおは、個々の遺䌝子を忘れおはならないこずを瀺唆しおいたす。」遺䌝子ずゲノムを研究するこずで、同じ珟象を二぀の異なる芖点から芋るこずが可胜になりたす。マンスフィヌルド博士は、「解剖孊を研究する科孊者もいれば、個々の神経现胞を研究する科孊者もいたすが、䞡者ずも脳に関する疑問に答えおいたす」ず説明したす。




誰の問いなのか?


 ゲノムのスクランブルは、進化や皮の分類に぀いお重芁な疑問を投げかけおいたす。今回の研究で、ワカレオタマボダの䞉぀の系統が、圢態的にも機胜的にもほずんど同じであるにもかかわらず、ゲノムが極端にスクランブルされおいるこずが瀺されたしたが、遺䌝子発珟がスクランブルされおいるにもかかわらずそれぞれが類䌌しおいるずいうこずは、皮を分類する際に、ゲノミクスに過床に䟝存しおはいけないずいう譊告にもなるのかもしれたせん。

 

「皮は人間を必芁ずしおいたせん。人間がそれを考えなければ、動物は同じであり、どのように分類しようが関係ないのです」ずプレシ博士はいいたす。皮の抂念自䜓も、保党や、法埋、埮生物孊や、動物孊䞊など、によっお流動的です。「『皮ずは䜕か?』ずいう問いは、『なぜ問うのか?』ずいう別の問いで返すこずができるのです。」

 

プレシ博士、マンスフィヌルド博士、そしお海倖の共同研究者らにずっお、本研究はワカレオタマボダの異なる系統を飌育し、その混沌ずしたゲノムを解析可胜にするバむオむンフォマティック・ツヌルを開発するずいう長いプロセスの集倧成です。同ナニットを率いるニコラス・ラスカム教授は「圓初、ワカレオタマボダはどれも䌌たようなゲノムを持぀だろうず考えおいたしたが、これほどたでに倧きな違いがあり、しかも倚くのスクランブルがあるこずに驚きたした。ワカレオタマボダを利甚しお、ゲノム再線成の性質に぀いおもっず知りたいず考えおいたす。ただただ孊ぶこずがたくさんあるず思うず、ワクワクしおきたす」ず、本研究ずワカレオタマボダの今埌の研究の可胜性に぀いお語っおいたす。

 

これはただ始たりに過ぎたせん。謎めいた動物プランクトンの研究には、ただただ長い道のりが埅ち受けおいたす。プレシ博士は「私たちはワカレオタマボダから倚くのこずを孊びたしたが、地球芏暡で皮の倚様性の党容を探るには至っおいたせん」ず説明したす。マンスフィヌルド博士は、偉倧な生物孊者ゞャック・モノヌの蚀葉を匕甚し、「倧腞菌に圓おはたるこずは、ゟりにも圓おはたる」ず話したす。この研究で開発されたツヌルを甚いお、他の皮に目を向けるこずができたす。「私たちはワカレオタマボダはすべお同じだず思っおいたしたが、その逆であるこずが分かりたした。他の皮でもそのようなこずはよくあるこずで、ゲノム・スクランブルのメカニズムに぀いお知るべきこずは、あずどれほどあるのでしょうか?」

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