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「希少ながん遺伝子変異「 BRAF Thr599dup 変異」の機能を解明」-No.351




希少ながん遺伝子変異「 BRAF Thr599dup 変異」の機能を解明




研究成果のポイント


1.包括的がんゲノムプロファイリング検査で同定された BRAF 遺伝子の希少変異である

 Thr599dup 変異の機能を明らかにしました。


2.BRAFThr599dup 変異は、代表的な BRAF 遺伝子変異である V600E 変異と同様に、

 単量体で MAPK 経路を恒常的に活性化すること、および BRAF に対する分子標的薬で

 あるダブラフェニブに高い感受性を示すことが示されました。


3.本研究成果により、BRAFThr599dup 変異を有するがんに対して分子標的療法が推奨さ

 れるとともに、包括的がんゲノムプロファイリング検査の有用性が確認されたことから、

 本検査のさらなる普及およびその結果に基づいたがん精密治療のさらなる推進が期待され

 ます。




概要


 浜松医科大学内科学第二講座の渡邉裕文医師(大学院生)、井上裕介助教、須田隆文教授(研究当時、現:理事・副学長)らの研究チームは、包括的がんゲノムプロファイリング検査*1で肺癌検体より同定された希少ながん遺伝子変異の一つである BRAFThr599dup 変異が、代表的な BRAF 遺伝子変異である BRAF V600E 変異と同等の強力なドライバー遺伝子変異であり、単量体で細胞内シグナル伝達経路の一つである MAPK 経路を恒常的に活性化すること、および BRAF に対する分子標的薬であるダブラフェニブに高い感受性を示すことを明らかにしました。




研究の背景


 BRAF 遺伝子は重要なドライバー遺伝子の一つであり、その変異は種々のがん種において認められます。BRAF 変異は、「キナーゼ活性」や「上流からのシグナルに対する依存性」、「二量体形成の有無」等により 3 つのクラス に分類されます。


最も代表的な BRAF 遺伝子変異である V600E 変異は上流のシグナルに非依存的に単量体で MAPK 経路を恒常的に活性化させることが知られ、クラス I*2 に分類されます。V600E 変異陽性肺癌に対しては、単量体の BRAF を治療標的とするダブラフェニブが、MEK 阻害薬であるトラメチニブとの併用療法として承認されています。しかし、V600E や V600K に代表される V600 変異の他にもクラス I に分類される BRAF 変異が存在するかについては明らかではありませんでした。


近年、がん関連遺伝子異常を網羅的に解析する遺伝子パネル検査が普及し、臨床現場において積極的に実施されるようになりました。本研究は、包括的がんゲノムプロファイリング検査で肺癌検体より同定された希少な BRAFThr599dup 変異の機能と分子標的薬の有効性を、BRAFV600E 変異を比較対照として明らかにすることを目的として行われました。




研究手法・成果


 野生型 BRAF、および BRAFV600E、BRAFThr599dup をマウス由来 proB 細胞株 (Ba/F3 細胞)とヒト由来正常気道上皮細胞株 (BEAS-2B 細胞) に発現させ、BRAF のキナーゼ活性や癌化能の評価、およびダブラフェニブやトラメチニブに対する感受性を検証しました。さらに、BRAF の二量体形成パートナーとなる野生型の BRAF および CRAF を CRISPR/Cas9 システムを用いてノックアウトすること、および BRAF の二量体形成を阻害する BRAF 遺伝子変異 (R509H 変異) の追加導入により、BRAFThr599dup の二量体形成の必要性を評価しました。

Ba/F3 細胞は、培養液に IL-3 が存在しないと生存できない性質を有していますが、ドライバー遺伝子が導入されると IL-3 非依存性に増殖を示すことが可能になります。この性質を利用し、我々は BRAFThr599dup が BRAFV600E と同様に、MAPK 経路の下流分子である MEKや ERK のリン酸化を介して、Ba/F3 細胞において IL-3 非依存性の増殖を強力に引き起こすことを明らかにしました。さらに、BEAS-2B 細胞において、BRAFThr599dup は BRAFV600E と同等の腫瘍形成能を示すことも明らかにしました。さらに、BRAFThr599dup は BRAFV600E と同様に、単量体でドライバー遺伝子としての機能を発揮しており、そのため単量体の BRAF を標的とするダブラフェニブに対して高い感受性を示すことを示しました。以上より、我々はBRAFThr599dup 変異が BRAFV600E 変異と同様にクラス I の BRAF 変異に分類されることを提唱しました。




参考図


野生型 BRAF と BRAFThr599dup および BRAFV600E の細胞内シグナル伝達





今後の展開


 現在、分子標的薬の使用が承認されている BRAF 変異は肺癌においては BRAF V600E 変異のみですが、本研究の結果から、BRAFThr599dup 変異も分子標的薬の有望な治療標的となりうることが示されました。分子標的治療の有効性がすでに確立している代表的な遺伝子変異以外の治療可能な希少変異の検出のため、今後も積極的な包括的がんゲノムプロファイリング検査の実施が望まれるとともに、同定された希少変異の機能について引き続き知見の集積が必要と考えられます。




用語解説


*1 包括的がんゲノムプロファイリング検査:

標準治療終了(見込み)後に実施され、承認薬の有無に関わらず、がんとの関連が知られている遺伝子異常を網羅的に調べることが可能な検査です。

 

*2 BRAF 遺伝子変異(クラス 1):

BRAF 遺伝子変異は、細胞の増殖に関与する遺伝子の変異で 3 つのクラスに機能面から分類されます。その中でもクラス 1 は、キナーゼ活性が最も高く、一般的にがん細胞の増殖や腫瘍の成長を促進する可能性が高い変異です。

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