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未在代表 松舘 敏

「心臓」~先人に学ぶ シリーズ 6~


 オステオパシー(医学)の「病因」の基礎的考え方に「構造(解剖)は機能(生理)を支配する」といった哲学がある。

 

 オステオパシー治療は、この構造の病変(オステオパシー病変)を施術で健全化することにより、機能(生理)を正常化し、病の治癒や症状の寛解を促していく。


その為、人体構造(解剖学)そして身体機能(生理学)の詳細な知識が求められる。そして更に、その構造体を触診できる技術とともに、構造体の「正常な位置」「正常な硬さ」「正常な動き」を診る治療者の「感性」が求められる。


そして感性に加え、「病」が発症するにあたっての「構造体の偏移・変化のプロセス」の知識を背景に置き、身体の構造を診ていくことが必要となる。



以下に、先人の先生方から学び得た「知識」を記録に残します。

 


心臓について



 今回は、心臓全体について記述したいと思う。


 心臓は横隔膜と左右の肺に挟まれていることのみで、固定された位置を保っているのではない。しかしながら、残念なことに多くの臨床家はこのことを知らないのが現実である。

 確かに心臓は横隔膜と左右の肺に囲まれており、一見こういった組織によって固定された位置を保っているかのように見えるが、もしそうなのであれば片肺を切除してしまった患者さんであれば、切除された空隙に心臓が転がり込むようなことが起こり得るはずである。

しかし、実際はその様なことは起こらない。

何故ならば、心臓は「靭帯」および「膜組織」によって連結固定されているからである。


 例えば、胸郭臓器全体としては、胸膜、胸内筋膜によって包まれ固定され、その中にある心臓はさらなる心膜によっても包まれている。靭帯との連結では頸椎との間で「椎骨心膜靭帯」、胸骨との間では「上下の胸骨心膜靭帯」そして横隔膜との間では「心横隔膜靭帯」によって、また胸椎との間では「深頸筋膜」と「中頸筋膜」の合流した膜から延びてくる膜や脂肪などを含めた結合組織による「心膜内臓靭帯」などによって固定されている。また、それ以外の組織による心臓の安定化としては、「肺動静脈」がある。こういった結合組織によって、心臓は大まかな位置を保つことが出来ているのである。


 もし、心膜が捻じれたりすることで形を変えるようなことがあれば、それは循環器の問題だけに留まらず、呼吸器や運動器系の問題にも影響を及ぼす可能性があることを皆さんは理解できるだろうか。

例えば、心膜が捻じれる例として右側の腸骨が後方回転を起こしたと仮定しよう。腸骨が後方に回転することで相反関節である仙骨底の右側は前下方(前上方という言見もある)に滑り込む、そして腰仙部の椎間板がその隙間を埋めようとして右に回旋を起yこし、それに合わせてL5の椎体も右回旋、腰椎は左側屈の機能障害を起こし、L5以上は軸の回旋によって椎体の右回旋を起こす。そしてその腰椎椎体についている左右の横隔膜脚が緊張することで横隔膜の歪が起こる。また腸骨が後方回転することで腰方形筋が緊張状態となり、同側の第12肋骨を引っ張るようになるが、その第12肋骨には横隔膜が付着している。


 こうして腸骨の後方回転は腰方形筋と仙骨・横隔膜脚を通じて横隔膜に強い影響を与え、その力は心横隔膜靭帯などを通じて心膜に及ぶ。

 しかしながら、その力はそこで終わることはない。

例えば、力が心横隔膜靭帯に達したならば、心臓を包んでいる膜から椎骨心膜靭帯を通じて下部頸椎のミスアライメントが起こる可能性がある。そこで橈骨神経などが圧迫されるようなことがあれば、上腕骨外側上顆炎などを発症することになるのだ。


これは一つの例えとして書いてみたのだが、問題が必ず運動器に起こるとは限らず、その力の伝達が「どの方向に」「どの角度に」「どの組織に」対して向かうかによって症状は変化するのだ。

したがって我々臨床家は症状に対してアプローチするのではなく、その症状の元となる原因に対してアプローチが出来る知識と診断力を身に付ける必要がある。そのためには、手の感覚だけではない、解剖学の知識だけでもない・・・つまるところ手の感覚と解剖学の知識、両方を身に付けることが重要なのだ。


さて、ここで一つ付け加えておきたいことがある。

 一昨年頃よりほとんどの患者さんが胸骨が曲がり歪んでいることに気が付いておられるだろうか?

 そして、胸骨に圧痛がある方が珍しくない。正常であれば、胸骨はまっすぐであり、少々強く押さえても圧痛などはないのが普通である。しかしながら、現在残念なことにその様な方は稀である。そして肋骨の触診が難しくなってきている(一度試しに、肋骨を1~12番まで数えてみて下さい。)肋間隙が狭くなったり広くなったりランダムで、左と右の肋骨の高さがほとんどの患者さんは狂っている。


 ここからは少し難しい話になるが、これは胸膜や心膜の捻れがあることを意味している。

胸膜や心膜は漿膜であり、補正の作用が強いことから少々の捻れでは自覚症状は出ないが、とはいえ日本人の体を観ているとそろそろ限界に近付いている人が多いように思う。


 この原稿がJOPATOMIAに掲載されるころはどうなっているか正直なところわからない。

 何が原因でこの様な現象が起きているのか、それを紙面をもってしかも文字数制限がある中で説明するのは難しいのでやめておくが、多くの臨床家にとってこれまでにはなかったことが現実に起こっていることは理解していただき、様々な方面に対する見聞を広めていただけることを願うばかりである。



JOPA会報誌 「JOPATOMIA 会長コラム」より抜粋記載させていただきました。





2023年06月05日(月)

未在代表 松舘 敏


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