短距離走パフォーマンス向上には半腱様筋の肥大が関連していることを発見
「速く走る」ことは陸上競技から球技種目まで様々な競技パフォーマンスに貢献する重要な要素です。これまで多くの横断研究で、「速く走るために重要な筋はどこか?」という議論が長年なされてきました。しかし、短距離走選手が行っている日常的なトレーニングによる体幹部・下肢筋量の変化が走パフォーマンスに及ぼす長期的な影響については不明でした。
本研究は、体幹部・下肢各筋の筋量変化と陸上競技短距離走パフォーマンスの変化との関係を検討した初の縦断研究と考えており、走パフォーマンスの向上には特定の筋(半腱様筋)の肥大が特に関連することが明らかになりました。
本縦断研究では、23名の大学生陸上競技短距離走選手を対象に、1年間の日常的なトレーニングの前後で体幹部・下肢14の筋における筋体積と100m走における走速度を測定しました。その結果、体幹部・下肢6つの筋で筋体積が増加し、100m走の速度も増加しました。さらに、肥大した筋の中でも唯一ハムストリングスの半腱様筋における筋量増加が最大疾走局面(50–60m)における走速度の増加と関連していました。この結果について、半腱様筋は下肢筋の中でも筋束が長く、走動作など高速度の運動中においても素早く収縮して力を生み出すことのできるという特異的な筋構造が関連していると考えられます。
これまで実践現場では、走パフォーマンスの向上を目指して様々なトレーニングが実施されてきましたが、それらの多くは指導者やアスリートの経験や感覚に基づいて決定されることも多いのが現状です。本研究は、「速く走る」ための効果的なトレーニングプログラムをデザインする上で重要な科学的知見となり、アスリートの競技力向上に資することが期待されます。
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