磁石が脳機能を変化させるメカニズムを解明!
脳卒中や神経難病のリハビリテーションへの応用に期待!
新潟医療福祉大学リハビリテーション学部の芝田純也教授、浜松医科大学医学部の福田敦夫特命研究教授、中部大学生命健康科学部の高松泰行准教授、立命館大学大学院先端総合学術研究科の美馬達哉教授らのグループは、永久磁石が脳機能を変化させる仕組みを細胞レベルで明らかにしました。
本研究では、マウスの脳細胞を磁石で刺激し、その後の脳細胞の活動について測定しました。その結果、磁気が細胞の膜に存在する塩素イオン(Cl-)チャネルの活動を変化させ、脳の働きを抑えることを世界で初めて発見しました。
これにより、脳卒中や神経難病に苦しむ多くの人々の福音となる、磁石を使ったリハビリテーションや塩素イオン(Cl-)チャネルにターゲットを絞った新規医薬品開発に応用されることが期待されます。
背景
経頭蓋静磁場刺激(tSMS、下写真)は、磁石を使って安全にかつ簡単に脳の働きを変えることができる非侵襲的な脳刺激法で現在研究が進められています。これまでに、tSMS を用いた脳卒中のリハビリテーションにおいて、上肢の動きを改善させる効果が認められており、脳卒中や神経難病のリハビリテーションへの応用が期待されています。しかしながら、tSMS の磁石が脳に作用するメカニズムについてはこれまで明らかにされていませんでした。
方法
生後 21-27 日のマウスからとった脳の一部を、磁石を用い 300mT の強さで 30 分間刺激しました。刺激した後の脳細胞の興奮性を、パッチクランプ法(細いガラス管を 1 個の細胞の膜に密着させて細胞の電気信号を測り、その細胞がどれだけ興奮しているかを調べる方法)を用いて刺激をしていない脳細胞と比較しました。
結果
磁石で刺激することで、脳細胞を興奮させるために約 1.7 倍の電流が必要になりました。磁石を取り除いた後、10 分後には刺激前の状態に戻りました。つまり、脳細胞が一時的に興奮しにくい状態になり、脳細胞が興奮する回数も一時的に 50%以上減少することがわかりました(下図)。また、それに伴い脳細胞が一時的に 1.4 倍に膨らむことも観察されました。Cl-チャネルの働きを抑える薬剤を用いたところ、それらの現象が消失したため、磁石は Cl-チャネルの働きを変化させて脳細胞の働きを抑えていることがわかりました。脳細胞にはいろいろな種類の Cl-チャネルが存在しますが、特にSLC26 ファミリーに属する Cl-チャネルの関与が示唆されました。SLC26 ファミリーは脳以外にも腎臓や心臓などいろいろな臓器の中の細胞に存在しており、それらの細胞の内外に物質を輸送する役割を持っています。
本研究のポイント
1.磁石を頭において脳の働きを変化させる tSMS は、新しいリハビリテーションの方法と
して期待されています。
2.磁石がどのように脳細胞に作用するかを調べるため、磁石でマウスからとった脳の一部を
刺激し、脳細胞の活動を細胞レベルで詳細に調べました。
3.磁石で刺激すると、脳細胞は一時的に膨らみ、その興奮性が減少しました。Cl-チャネル
の働きが磁石により変化したことが原因であることが分かりました。
4.磁石が脳細胞に作用するメカニズムが解明されたため、磁石を用いたリハビリテーション
の開発が本格的に進むことが期待されます。
本研究が明らかにした磁石が作用する Cl-チャネルは脳の働きを変化させることができ
るため、その Cl-チャネルをターゲットにした新規薬剤の開発も期待されます。
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