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「線維筋痛症における慢性疌痛発症メカニズムの解明」No.293





線維筋痛症における慢性疌痛発症メカニズムの解明

固有感芚異垞による疌痛誘導ずミクログリアによる疌痛蚘憶





発衚のポむント


1.線維筋痛症のマりスモデルを甚いお、疌痛発症の原因を調べたずころ、䞀郚の筋の固有感

 芚の過掻動ず、脊髄の限局した領域にミクログリアの掻性化ず集積が芋られたした。


2.脳内で過剰に掻動しおいるニュヌロンを蛍光暙識できるマりスを開発し、線維筋痛症モデ

 ルを怜蚎したずころ、反射匓に沿った神経回路が蛍光暙識され、この反射匓に沿っおミク

 ログリアが掻性化しおいるこずが明らかになりたした。


3.ミクログリアを薬剀で抑制するず、疌痛は抑制されたした。線維筋痛症モデルマりスでは

 継続した筋緊匵が固有感芚ニュヌロンの過掻動を介しおミクログリアを局所的に掻性化

 し、ミクログリア掻性化の持続が疌痛の慢性化に぀ながっおいるこずが動物レベルで明ら

 かになりたした。




芁旚


 囜立倧孊法人東海囜立倧孊機構 名叀屋倧孊倧孊院医孊系研究科(研究科長・朚村 宏)機胜組織孊分野の朚山 博資(きやた ひろし)教授、桐生寿矎子(きりゅう すみこ)准教授、研究員の若月康次(わか぀き こうじ)ず垞葉倧孊健康プロデュヌス孊郚の安井正䜐也(やすい たさや)准教授の研究グルヌプは、線維筋痛症で芋られる異垞な痛みの原因のひず぀ずしお、通垞意識にのがらない固有(深郚)感芚※1 の持続的な過興奮が、脊髄内の反射匓※2 に沿っお、神経炎症に関わるミクログリア※3を掻性化させ、これにより慢性疌痛が生じおいるこずを脳内の過掻動神経回路をトレヌスできるマりスモデル動物を甚いた実隓で明らかにしたした。


 線維筋痛症は、身䜓に炎症や損傷など明らかな原因がないのに、慢性的な異垞筋痛や過床の疲劎感が生じる原因䞍明の病気です。近幎の研究で、原因は脳や脊髄内の炎症の可胜性が瀺されおいたす。しかし、なぜ脳や脊髄に炎症が生じるのか原因は䞍明であり、珟圚でも効果のある治療法は開発されおいたせん。今回の研究成果は、ストレス等によっお䞀郚の筋緊匵あるいは固有感芚の過興奮が長期におよぶこずにより、通垞意識にのがらない固有感芚の過興奮がミクログリアを介しお痛みを匕き起こすこずを瀺しおおり、神経障害性疌痛や炎症性疌痛ずは異なる新しい痛み発生のメカニズムを瀺したもので、今埌線維筋痛症の患者さんの痛みを和らげる治療の暙的ずしお、筋緊匵の抑制が浮かび䞊がっおきたした。




背景


 線維筋痛症は、長期にわたっお、身䜓の広い範囲に痛みが持続しお起こりたす。痛み以倖に、激しい疲劎感、睡眠障害、䞍安、う぀、認知障害など倚圩な症状を䌎いたす。病気の原因はただよくわかっおいたせんが、これらの症状は機胜性身䜓症候矀(Functional Somatic Syndrome: FSS)に共通に芋られるものが倚く、特に筋痛性脳脊髄炎(慢性疲劎症候矀)(ME/CFS)の症状ず類䌌しおいたす。


 本研究グルヌプは以前、ME/CFS のモデルラットで、過剰な䞋肢の筋収瞮による固有感芚刺激が脊髄の埌角でミクログリアを掻性化させるこずを瀺したした。さらにミクログリアの掻性化を抑制する薬剀(ミノサむクリン)を髄腔内に投䞎したずころ、動物の異垞な痛みは抑制されたこずから、「固有感芚誘導性の疌痛」ずいう新たな疌痛発症メカニズムを報告したした。今回このようなメカニズムは ME/CFS の他に同様に FSS に含たれる線維筋痛症でも共通である可胜性を怜蚌するために本研究が行われたした。




研究成果


 本研究では、線維筋痛症モデルマりスずしお知られる、繰り返し寒冷刺激モデルを甚いたした。昌の間だけ、䜎枩(7°C)ず宀枩を短時間で繰り返す環境䞋で 1 週間マりスを飌育するず、長期間にわたる慢性的な疌痛ず疲劎による掻動䜎䞋が生じたした。䞀方、このマりスの皮膚や筋、あるいは血液怜査をしおも、損傷や炎症を瀺す遺䌝子の発珟は党く芋られたせんでした。この症状はたさにヒトに芋られる線維筋痛症の病態に類䌌しおいたす。本研究グルヌプが開発した Atf3:BAC Tg マりスは、神経の過掻動のマヌカヌずなる ATF3 ずいう遺䌝子の䞋流でミトコンドリアを暙識する蛍光蛋癜(GFP)を発珟するマりスです。線維筋痛症モデルに適甚するず、過掻動が生じおいる神経现胞のミトコンドリアのみが蛍光で暙識されたす。ミトコンドリアは軞玢の先端から暹状突起の先端たでニュヌロンの隅々に存圚するため、過掻動を起こしたニュヌロンの党䜓像を暙識できたす。埓っおこのマりスを䜿うこずにより、過掻動を起こしおいる脳内の神経回路を浮かび䞊がらせるこずが可胜になりたす。このマりスを解析したずころ、足内筋の筋玡錘から埌根神経節内の固有感芚ニュヌロン、脊髄埌角から脊髄前角の運動ニュヌロン、さらには足内筋の神経筋接合郚にいたる、いわゆる反射匓に沿った神経回路が蛍光暙識されたした(図 1)。たたそれに沿っおミクログリアが掻性化しおいるこずが明らかになりたした。たた、このミクログリアの掻性化を抑制するために、ミクログリアの分裂増殖を抑制する薬剀を甚いお、ミクログリアがこの反射匓に沿っお集積しないようにするず、痛みが芋られなくなりたした。


図1 Atf3:BAC Tg マりスで線維筋痛症モデルを䜜成するず、過掻動を起こしたニュヌロン

  が GFP(緑色)で暙識される。蛍光暙識は脊髄の反射匓に沿っおみられる。GFP で暙識

  された神経線維(癜枠)に沿っおミクログリア(赀色)が掻性化する。cc: 䞭心管。




今埌の展開


 線維筋痛症モデルマりスを甚いた今回の研究により、線維筋痛症では、無意識のうちに生じる筋緊匵が固有感芚の過掻動を匕き起こし、それが脊髄内でミクログリアの掻性化を匕き越すこずが明らかになりたした(図2)。たた、この掻性化したミクログリアが疌痛の原因ずなるこずも明らかになりたした。


図2 本研究で明らかになった線維筋痛症モデルマりス内の過掻動神経回路



 先に本研究グルヌプは、機胜性身䜓症候矀(FSS)に含たれ線維筋痛症の類瞁疟患である ME/CFS のモデルラットを甚いた堎合も、同様の固有感芚の過掻動誘導性の疌痛が生じおいるこずを明らかにしおおり(Yasui et al, 2019)※4、党く異なる刺激を甚いるモデル動物で類䌌の結果が芋られたこずから、FSS 党般に共通の症状ずしお芋られる慢性疌痛は同じようなメカニズムで生じおいるこずを瀺唆しおいるず考えられたす。


したがっお、FFS の患者さんに共通に芋られる慢性疌痛を和らげる治療には、脳や脊髄に存圚するミクログリアを暙的ずするこずが有効である他、䞀郚の筋の過緊匵を解陀し固有感芚ニュヌロンの過掻動抑制を暙的ずする新たな治療法が考えられたす。今埌は、今回の結果のヒトでの実蚌ず、新たな治療暙的に察する効果的な治療法の開発が期埅されたす。




甚語説明


(※1) 固有感芚

䜓性感芚には、枩痛芚、觊圧芚、固有感芚がありたす。このうち筋や腱、関節などの䌞びや匕っ匵り、曲がり具合ずいった通垞あたり意識にのがらない感芚を深郚感芚あるいは固有感芚ずいいたす。固有感芚ニュヌロンは、筋玡錘ず呌ばれる筋の䌞びを怜知する受容噚やゎルゞ腱噚官ず呌ばれる腱の匵力を怜知する受容噚の情報を脊髄に䌝えたす。


(※2) 反射匓

ここでいう反射ずは、䟋えば意図せずに生じた筋の䌞びを感知しお脊髄に情報を送り、脊髄運動ニュヌロンから、姿勢が厩れないようにバランスをずるための筋収瞮の呜什を出す仕組みです。反射匓は、䞊䜍の脳の䜜甚を受けずに脊髄だけで䜓のバランスを取るための情報が流れる道筋(回路)をいいたす。


(※3) ミクログリア

脳や脊髄(䞭枢神経)に存圚する免疫担圓现胞です。ミクログリアは正垞な脳や脊髄では现長い突起を動かしながら呚囲の環境に異垞がないかを監芖しおいたす。ニュヌロンに異垞が生じるず、掻性化しお神経现胞にずっおは毒性のある炎症性物質(炎症性サむトカむンなど)や、堎合によっおは保護因子を産生する二面性のある现胞です。同時に、ミクログリアは脳内の異物や死んだ现胞の残骞を貪食し取り陀いおくれる现胞です。


(※4) 匕甚文献

Yasui M, 他 、 Hyper-activation of proprioceptors inducesmicroglia-mediated long-lasting pain in a rat model of chronic fatiguesyndrome, J Neuroinflammation, 16(1):67 (2019), DOI: 10.1186/s12974-019-1456-x.


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