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「肺の末梢感覚神経が喘息様気道炎症を軽減させるメカニズムを解明」-No.290




肺の末梢感覚神経が喘息様気道炎症を軽減させるメカニズムを解明

〜気管支喘息の新規治療法の確立に結びつく可能性も〜




 国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵 理事長:五十嵐隆)免疫アレルギー・感染研究部の溜雅人研究員、松本健治部長、森田英明室長とマウントサイナイ医科大学(米国)の Brian S. Kim 教授らの研究グループは、肺の末梢感覚神経が喘息様気道炎症を軽減させるメカニズムに関する研究を行いました。


一般的にアレルギー性疾患の炎症は、活性化した免疫細胞が炎症を制御するために放出するサイトカイン(インターロイキン(IL-4/5/13)など)とその受容体、そしてサイトカインが受容体に結合した後に情報伝達するための酵素(JAK1)1が、重要な役割を担っています。

本研究では JAK1 が働かないもしくは過剰に働くマウスなどを作成し、そのマウスのアレルギー性炎症の重症度や、末梢感覚神経の働きなどを調べました。

その結果、肺の末梢感覚神経の JAK1 が神経ペプチドの CGRPβ2を介して 2 型自然リンパ球(ILC2)3の働きを抑えることで、喘息様気道炎症を軽減させることを明らかにしました(図 1)。 



用語解説


Janus Kinases(JAKs

様々なサイトカイン受容体の下流に位置し、細胞内での情報伝達を担う酵素。JAK1、JAK2、JAK3、Tyk2に分類され、細胞増殖や転写などを制御する。


Calcitonin gene-related protein (CGRP)

神経伝達物質として知られる神経ペプチドの1種で、CGRPα と CGRPの 2 つがある。強力な血管拡張作用や胃酸分泌の抑制を引き起こし、近年では片頭痛の原因となることが知られ、この CGRP の阻害薬が片頭痛の治療薬として開発されている。一方、様々な免疫細胞が CGRP の受容体を発現していることから、免疫細胞の活性化にも関わることが注目されている。


3 2型自然リンパ球(ILC2)

アレルギー疾患の病態形成に重要な役割を果たす免疫細胞。組織の障害などを認識し、IL-4 や IL-13 などのサイトカインを大量に放出してアレルギー性炎症を制御している。 

 


 一方で、皮膚の末梢感覚神経の JAK1 は主に痒みを伝達し、かきむしることによる皮膚障害を介してアレルギー性の炎症を悪化させることが、これまでの研究から分かっています。今回、肺の末梢感覚神経の JAK1 がアレルギー性の炎症を軽減させることが分かったことにより、末梢感覚神経における JAK1 の役割は臓器によって異なることが明らかになりました(図 2)。これは、組織によって異なる JAK の機能を標的とした治療が炎症の制御に効果的である可能性を示唆しており、気管支喘息をはじめとしたアレルギー疾患の将来的な予防や新規治療の開発に貢献することが期待されます。





発表のポイント


1.肺の末梢感覚神経が、喘息様気道炎症を軽減させるメカニズムを解明しました。


2.そのメカニズムは、肺の末梢感覚神経における JAK1 が神経ペプチドの CGRPβを介し

 て 2 型自然リンパ球(ILC2)の働きを抑えることです。


3.アレルギー性の炎症における末梢感覚神経 JAK1 の役割は、皮膚では主に痒みを伝達

 し、かきむしることによる皮膚障害を介して炎症を悪化させるのに対し、肺では逆に炎症

 を軽減させるように働くことを見出しました。これは、臓器によって JAK1 の役割が異

 なることを意味します。


4.本研究成果は、臓器によって異なる JAK1 の機能を標的とした治療が炎症の制御に効果

 的である可能性を示唆しており、気管支喘息をはじめとしたアレルギー疾患の将来的な予

 防や新規治療の開発に貢献することが期待されます。 




背景


 アレルギー性疾患の病態形成には、活性化した免疫細胞から放出される IL-4/5/13 などのサイトカインが関与することが知られています。これらのサイトカインが機能を発揮する際には、個々の受容体の下流に位置する JAK1 が中心的な役割を担うと考えられており、アトピー性皮膚炎では新たな治療標的となっています。


近年になり、末梢感覚神経にもこれらサイトカイン受容体や JAK1 が発現していることが分かりました。しかし、アレルギー性の炎症制御における末梢感覚神経の JAK1 の役割は不明な点が未だ残されており、本研究では喘息様気道炎症における末梢感覚神経と JAK1の役割を明らかにすることを目的に行われました。 




概要


1.JAK1(サイトカインが受容体に結合した後に情報伝達するための酵素)が過剰に働くマウ

 スを作成し、アレルギー様炎症の自然発症の有無を調べました。


2.すると、マウスの皮膚ではアトピー性皮膚炎様の炎症が生後早期から自然発症したのに対

 し、肺では成人年齢相当でも炎症を認めませんでした。


3.肺では JAK1 が免疫細胞の働きを抑えるように働くメカニズムが存在するのではないか

 と考え、非免疫細胞で JAK1 が過剰に働くマウスを作成しました。

 そのマウスに喘息様気道炎症を起こして観察したところ、通常のマウスに比べて炎症が軽

 減することを見出しました。


4.次に、末梢感覚神経でのみ JAK1 が働かないマウスを作成して喘息様気道炎症を起こし

 たところ、通常のマウスに比べて炎症が悪化しました。


5.さらに、先のマウスとは対照的に、末梢感覚神経でのみ JAK1 が過剰に働くマウスを作

 成し喘息様気道炎症を起こしたところ、炎症が軽減されることを見出しました。


6.これらの結果から、肺の末梢感覚神経における JAK1 がアレルギー性の炎症を軽減させ

 るように働くことが分かりました。


7.次に、マウスの肺の末梢感覚神経において免疫細胞の活動を制御する可能性がある神経ペ

 プチドの遺伝子発現レベルを調べました。


8.すると、肺の末梢感覚神経で JAK1 が過剰に働くマウスでは、神経ペプチドの CGRPが

 気道中で有意に増加しており、CGRPβが JAK1 によって制御されていることが分かり

 ました。


9.さらに、この CGRPが肺のアレルギー性炎症に関わる免疫細胞(ILC2)の働きを抑制して

 いることを確認し、CGRPβを吸入させることで喘息様気道炎症を軽減させることを見出

 しました。


10.これらの結果から、肺の末梢感覚神経における JAK1 は、CGRPを介して ILC2 の機

 能を抑制し、喘息様気道炎症を軽減させるように働くと結論しました。

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