脳による新たな排尿制御メカニズムの解明
山梨大学大学院総合研究部医学域生理学講座神経生理学の喜多村和郎教授の研究グループは、同泌尿器科学講座の三井貴彦教授、武田正之客員教授の研究グループと共同で、脳が排尿を制御する新しいメカニズムを明らかにしました。
研究の背景
膀胱に尿が溜まってくると膀胱内圧が上昇します。脳は、膀胱内圧の上昇を検知し、適切な場所、適切なタイミングで尿を排出するために重要な働きをしています。
脳卒中や脳幹部の脳出血を起こした患者では、高率で排尿障害がみられる一方、前頭皮質の病変では、頻尿や尿意切迫感などの蓄尿障害がみられることから、脳の様々な領域が、排尿と蓄尿を適切に制御していることがわかっています。
排尿に関わる脳の活動は過去の多くの研究で明らかにされており、中脳水道周囲灰白質(PAG)や、橋排尿中枢(PMC)と呼ばれる領域が、排尿の司令を脊髄に送っていることはよく知られています。一方、排尿時に活動する、他の脳領域の役割は、あまりよく知られていませんでした。
前頭皮質の一部である前帯状皮質(anterior cingulate cortex, ACC)は、様々な感覚や痛み、恐怖などの情報処理に加え、記憶や意思決定など多くの機能を担っています。排尿障害患者の脳活動計測や動物実験などにより、排尿にも関わっていることが古くから知られていました。
これまでの研究から、ACC の活動は、排尿を抑えて膀胱に尿を溜めると考えられていましたが、全く逆の結果をしめす報告もあり、その役割については長く議論が続いていました。
今回の発見
そこで今回、研究グループでは、特定の神経細胞を選択的に刺激することができる光遺伝学(オプトジェネティクス)法という方法を用いて、マウスの ACC の神経細胞を選択的に刺激し、膀胱内圧に対する ACC の活動の影響を調べました。
その結果、ACC の興奮性神経細胞を選択的に刺激して、活動を上昇させると膀胱内圧が上昇すること、逆に ACC の抑制性神経細胞を選択的に刺激して、活動を抑えると膀胱内圧の上昇が抑制されることを突き止めました。この結果は、これまで受け入れられてきた説とは異なり、ACC の活動が蓄尿と排尿の両方に関与しているということを示しています。
また、ACC が興奮性神経細胞と抑制性神経細胞の活動のバランスによって、蓄尿と排尿を適切にコントロールするという新しい制御メカニズムを示唆しています。
今回の研究の意義/今後の展開
今回の研究では、研究対象となる細胞を選択的に刺激することができる、オプトジェネティクス法を用いることで、これまで電気刺激や薬理実験のような非選択的刺激法では、明らかにできなかった問題を解決することができました。
今後、同様の方法を用いることで、ACC の活動が PAG や PMC など他の脳領域の活動をどのように調節するのかをはじめとして、脳による排尿制御の全貌が明らかになることが期待されます。
また将来的に、本研究で用いた神経活動操作法を、排尿障害や蓄尿障害をコントロールする方法として活用することができるかもしれません。
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