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「臓器線維化と免疫グロブリンのクラススイッチに関与するT細胞の発見」-No.379




Ig G4関連疾患の罹患臓器に浸潤し細胞傷害と臓器線維化に関わる

T細胞とB細胞を同定

臓器線維化と免疫グロブリンのクラススイッチに関与するT細胞の発見




発表のポイント


1.IgG4 関連疾患は、全身の慢性炎症性疾患であるがその病態は不明である


2.IgG4 関連疾患の罹患臓器における病態形成に関わる病因 T 細胞と B 細胞の同定に成功


3.今後は臓器線維化を特徴とする他疾患の病態解明にもつながる




概要


 IgG4 関連疾患は、2001 年に日本人によって初めて報告された新しい疾患概念であり、涙腺、唾液腺、膵臓、腎臓、胆管、後腹膜など全身のさまざまな臓器に腫瘤を形成する疾患です。高 IgG4 血漿と、罹患臓器へ多数の T 細胞および B 細胞の浸潤ならびに特徴的な臓器線維化を認める全身性慢性炎症性疾患です。これまで、この疾患の罹患臓器における異常な免疫病態についての詳細は不明で、その解明が望まれていました。


 九州大学大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座顎顔面腫瘍制御学分野(当時)の前原隆講師(現・九州大学病院 顎口腔外科 講師)、古賀理紗子医員、川野真太郎教授、中村誠司教授(長崎国際大学)、Shiv Pillai(ハーバード大学 Ragon Institute of MGH, MIT, and Harvard)らの共同研究グループは、本研究により、罹患臓器に浸潤する全 T 細胞と B 細胞を1細胞レベルで詳細に解析できたことで、IgG4 関連疾患の実際に免疫応答が起こっている罹患臓器における病因 T 細胞群と B 細胞群を世界で初めて明らかにしました。この研究成果により、IgG4 関連疾患の罹患臓器における細胞傷害と臓器線維化に関わる免疫学的応答の一端を明らかにすることができました。


今後は、本疾患の病態解明につながるだけでなく、本研究で明らかにした特異な細胞を標的とした新しい治療法の開発が可能であると考えられます。




研究者からひとこと


 本解析結果は、臓器線維化を特徴とするその他の全身性慢性炎症性疾患における T 細胞と B 細胞の役割を明らかにすることにも繋がると考えられる。




研究の背景と経緯


 IgG4 関連疾患は、2001 年に日本人によって初めて報告された新しい疾患概念であり、涙腺、唾液腺、膵臓、腎臓、胆管、後腹膜など全身のさまざまな臓器に腫瘤を形成する疾患で、自己免疫疾患の一つとも考えられています。病態の特徴として、免疫グロブリンの一種である IgG4 を産生する細胞が特異に増加し、罹患臓器では活発な免疫応答に伴い T 細胞と B 細胞という免疫の司令塔となる細胞群が多数浸潤し、不可逆性の臓器線維化を認めます。これまで、この疾患の罹患臓器における異常な免疫病態についての詳細は不明で、その解明が望まれていました。


罹患臓器に浸潤する T 細胞と B 細胞の詳細が明らかになれば、本疾患の病態解明だけでなく、特異な細胞を標的とした新しい治療法の開発が可能であると考えられます。




研究の内容と成果


 九州大学大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座顎顔面腫瘍制御学分野の前原隆講師、古賀理紗子医員、川野真太郎教授、中村誠司教授(長崎国際大学)、Shiv Pillai(ハーバード大学 RagonInstitute of MGH, MIT, and Harvard)らの共同研究グループは、IgG4 関連疾患の罹患臓器に浸潤するT 細胞と B 細胞群を分離採取し1細胞レベルでそれらの遺伝子発現を解析することで、本疾患の罹患臓器に特徴的に存在する特異な T 細胞群と B 細胞群を明らかにしました。特に、グランザイム K を産生する細胞傷害性 T 細胞、IL10+ICOS+LAG3+Foxp3-濾胞性ヘルパーT(Tfh)細胞といった特徴的な T細胞群の増加と MKI67 陽性 B 細胞、Double negative (DN)2B 細胞(※1)、 DN3B 細胞といった特徴的な B 細胞群が抗原を認識しオリゴクローナルに増殖していることを明らかにしました。そして、これらの細胞集団の相互連間が、本疾患の特徴である臓器傷害と不可逆性の臓器線維化ならびに IgG4 産生への免疫グロブリンのクラススイッチに関与していることを示しました。




今後の展開


 将来的には、IgG4 関連疾患に関わらず、臓器線維化を特徴とする免疫介在性線維化疾患の病勢を反映する新規のバイオマーカーや治療薬の開発に貢献すると期待できます。さらには、臓器線維化を特徴とする自己免疫疾患である全身性強皮症や COVID-19 感染症における肺線維化などの臓器線維化疾患の病態解明への糸口になり得る可能性も考えられます。




参考図


図1 IgG4 関連疾患の罹患臓器(唾液腺)における特異な T 細胞群

IgG4 関連疾患の代表的な罹患臓器である顎下腺より CD3+T 細胞を分離採取し、シングルセル遺伝発現解析と T 細胞受容体の多様性解析を行なった。その結果、グランザイム K を特徴的に産生する細胞傷害性 T 細胞(CD4+CTL とCD8+CTL)がオリゴクローナルに増加し、組織傷害と臓器線維化に関与していることを明らかにした。さらに IL10 を特異に産生する IL10+LAG3+ICOS+Foxp3-Tfh 細胞を新規に同定した。この細胞集団が IgG4 産生に関与していることを明らかにした。




用語解説


(※1) Double negative B 細胞

ほとんどの成熟 B 細胞は、表面マーカーである IgD と CD27 の発現で 4 つのサブタイプに分かれるが、最近になって自己免疫疾患でその増加が明らかになってきた集団が IgD-CD27-B 細胞


(※2) scRNA sequencing(図1)

シングルセル遺伝子発現解析:1つ1つの細胞の遺伝子発現を解析


(※3) TCR sequencing(図1)

T 細胞受容体多様性解析:多様な T 細胞集団の中に特定の T 細胞クローンが優位に存在するか否かの解析

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