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「遺伝子変異に起因した重症アレルギー疾患患者の特徴を明らかに」-No.322




遺伝子変異に起因した重症アレルギー疾患患者の特徴を明らかに

新たな疾患概念である"STAT6機能獲得型変異疾患"の診断に貢献




 国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵 理事長:五十嵐隆)免疫アレルギー感染研究部/アレルギーセンターの森田英明室長、消化器科の新井勝大診療部長・竹内一朗医師、ゲノム医療研究部の要匡部長、柳久美子室長、好酸球性消化管疾患研究室の野村伊知郎室長らの研究グループは、カナダ、米国、タイ、中国、トルコ、フランス、オランダの研究者らとともに、STAT6 遺伝子※1の機能獲得型変異(遺伝子の変異によって、作られるタンパク質が多くなったりすること)が原因となる重症アレルギー疾患の病態メカニズム、臨床的特徴を明らかにしました。


 当センターは、重症アレルギー疾患における STAT6 遺伝子の変異(p.Asp419Asn)を、2022年に全エクソーム解析※2によって発見※3 し、STAT6 遺伝子を原因とする新たな単一遺伝子疾患として提唱しました。同時期から世界中で、STAT6 遺伝子の機能獲得型変異を有する患者が相次いで報告され、全世界で 21 症例の患者が存在することが明らかになっています。本研究では、これら世界中の患者の特徴を解析し、生後早期に難治性アトピー性皮膚炎を発症すること、末梢血中の好酸球数増加や高 IgE 血症を認めること、また、高い確率で食物アレルギーや好酸球性消化管疾患を発症することなど、病態メカニズムや臨床的特徴を明らかにしました。


【図 1:STAT6 機能獲得型変異疾患で報告された臨床徴候と頻度(一部抜粋)】




発表のポイント


1.新たな単一遺伝子疾患であるSTAT6 機能獲得型変異疾患として世界各国から報告され

 た 21症例を集積して解析し、病態メカニズムや臨床的特徴を明らかにしました。


2.本疾患では、生後早期に難治性のアトピー性疾患を発症し、食物アレルギーやアナフィラ

 キシー、気管支喘息といった疾患を合併することが分かりました。好酸球性消化管疾患も

 高率で発症し、炎症の部位によって嘔吐、腹痛、下痢、血便など様々な症状が引き起こさ

 れます。本疾患の内視鏡所見は通常の好酸球性消化管疾患と比較してリンパ濾胞過形成が

 目立つという特徴がありました。


3.すべての症例で、末梢血好酸球数や血清 IgE 値が異常に高くなることが分かり、今後

 STAT6 機能獲得型変異疾患を疑う重要な手がかりになります。


4.報告された遺伝子変異はいずれも STAT6 の機能に関わる重要な部位のミスセンス変異

 ※4 であり、STAT6 のリン酸化・脱リン酸化のバランスや、核内への移行性が変化する

 など、様々なメカニズムで STAT6 の転写活性が異常に進んでしまうことが明らかにさ

 れました。


5.一部の症例での分子標的治療薬の有効性や、悪性リンパ腫や脳動脈瘤の合併が報告されま

 したが、STAT6 機能獲得型変異疾患の特徴として確立するためには今後のさらなる症例

 の集積が必要です。今回の研究によって明らかになった特徴を有する症例に対して、遺伝

 子解析を行うことで本疾患の診断につながる可能性があります。




背景・目的


 アレルギー性疾患は、一般的に環境要因を含む様々な外的な要因と、遺伝的素因が複雑に絡み合って発症する多因子疾患と考えられています。一方で、近年の遺伝学および解析技術の発展にともない、生後早期から発症する疾患や重症の炎症を伴う疾患の中には、たった一つの遺伝子の異常で発症する「単一遺伝子疾患」が存在する可能性が示唆されるようになりました。

本研究は、単一遺伝子疾患として当センターが提唱した STAT6 機能獲得型変異が原因となる重症アレルギー疾患において、その病態メカニズムや臨床的な特徴を明らかにするために行いました。




研究内容・成果


 今回の研究では、13 家系・21 例の STAT6 機能獲得型変異疾患の患者の特徴を解析しました。小児だけでなく成人例も含まれていましたが、共通して生後早期に難治性アトピー性皮膚炎を発症すること、末梢血中の好酸球数増加や高 IgE 血症を認めることが明らかとなりました。また、高い確率で食物アレルギーや好酸球性消化管疾患を発症することが明らかになりました(図1)。


内視鏡所見では通常の好酸球性消化管疾患と比較して、消化管のリンパ濾胞過形成が目立って認められ、STAT6 機能獲得型変異疾患に特徴として示唆されました。これらの特徴は、STAT6 機能獲得型変異疾患を疑う重要な手がかりになると言えます。STAT6 遺伝子の機能獲得型変異として同定された 11 種類の遺伝子変異はいずれも、STAT6分子が正常に機能するために重要な部位のミスセンス変異であることが分かりました(図2)。たった一つのアミノ酸の変化ですが、STAT6 分子の機能を調整するリン酸化・脱リン酸化のバランスや、核内への移行性が変化することで、STAT6 分子の転写活性が異常に活性化し、結果として免疫細胞である Th2 細胞を中心とするアレルギー性の炎症などが引き起こされると考えられます。


【図 2:STAT6 遺伝子の機能獲得型変異として報告された遺伝子変異の種類と患者数】

 



今後の展開について


 本研究によって世界中に存在する STAT6遺伝子の機能獲得型変異を原因とする重症アレルギー疾患患者の特徴が明らかになりました。重症アレルギー疾患が、たった一つの遺伝子の変異で発症するという概念は、新しい概念で認知度は高くなく、世界中に診断されていない患者が多く存在する可能性があります。本研究で明らかにした臨床的特徴を元に、特徴が類似する患者の遺伝子解析を進めることで、多くの患者さんが本疾患と診断されることが見込まれます。また、治療法も確立されていないため、症例を集積し解析していくことで、有効な治療方法の開発につながることが期待されます。


さらに、生後早期に重症なアレルギー症状を有する患者さんの中には、STAT6 機能獲得型変異以外にも、単一遺伝子疾患が存在する可能性があります。原因が分かることで、病態に応じた治療戦略・治療法の開発への道が開け、子どもたちの健全な発育・発達につながる可能性があるため、当センターでは今後も、日本全国に存在する重症アレルギー疾患患者を対象として、遺伝子解析研究を進めていきます(研究代表者:森田英明)。




用語解説


※1 STAT6

細胞質内に存在するシグナル伝達物質で、インターロイキン(IL)-4 などの刺激によってリン酸化されると,細胞核内へ移行して,アレルギー性の炎症を引き起こす遺伝子群の転写を活性化します。


※2 全エクソーム解析

遺伝子の中でタンパクになるエキソン配列のみを網羅的に解析する遺伝子解析の手法です。



※4 ミスセンス変異

遺伝子変異の種類のひとつで、一つのアミノ酸が本来とは別のアミノ酸に変化します。

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