未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。
根本治療にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。
このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。
人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。
以下に、最新の科学知見をご紹介します。
【パーキンソン病の新しい発症メカニズムを発見】
~水素イオンとカリウムイオンの輸送異常が原因~
パーキンソン病は 10 万人あたり約 150 人の割合(60 歳以上では 100 人に約 1 人)でみられる難病の一つで、振戦(手足・首が震える)や筋固縮(手足がこわばる)など深刻な運動症状を示す神経変性疾患です。パーキンソン病患者の脳内では、病原(変性)タンパク質である α-シヌクレイン[※2]が異常に蓄積され、運動機能を司るドパミン神経細胞[※3]が死に至ると考えられています。しかし、α-シヌクレインが脳内に「ゴミ」のように蓄積するメカニズムの全容は明らかにされていませんでした。パーキンソン病が発症・進行する仕組みを理解するには、α-シヌクレインが蓄積するメカニズムを明らかにする必要がありました。
研究グループは、パーキンソン病患者において多数の変異が報告されている病因分子の一つである「PARK9」[※1]が、細胞内における「ゴミ処理場」(不要・異常タンパク質を分解する場)であるリソソーム[※4]に存在し、水素イオンとカリウムイオンを輸送するタンパク質として機能することを発見しました(図の上図)。
興味深いことに、この機能はパーキンソン病患者で報告されている変異によって著しく低下することがわかりました。パーキンソン病患者の脳内では PARK9 による水素イオンとカリウムイオンの輸送機能が低下しているものと考えられます。
また、PARK9 のイオン輸送機能が、消化性潰瘍や逆流性食道炎の治療薬として使用されている酸分泌抑制剤によって阻害されることを見出しました。PARK9 の輸送機能が阻害されると、リソソームの分解能力(ゴミ処理能力)が低下し、「α-シヌクレイン」の異常な蓄積が引き起こされました(図の下図)。
以上より、PARK9 による水素イオンとカリウムイオンの輸送機能は、α-シヌクレインが脳内に蓄積することを防ぐ重要な役割を担っており、パーキンソン病患者ではその機能が低下することで α-シヌクレインの異常な蓄積が引き起こされることが示唆されました。
研究成果の概念図
パーキンソン病では、運動に関わるドパミン神経細胞が死ぬことで、シグナル伝達が不全になり運動機能の障害(手足が震える、こわばる等)が生じる。
正常時の神経細胞では、PARK9 の水素イオン(H+)とカリウムイオン(K+)の輸送によりα-シヌクレインの分解が促進される(上図)。
しかし、パーキンソン病患者では、PARK9のイオン輸送機能が低下しており、α-シヌクレインが分解されず蓄積することで神経細胞が死に至る(下図)。
《用語説明》
※1 PARK9
パーキンソン病の原因分子の一つ。パーキンソン病患者において変異が多数見つかっており、その異常がパーキンソン病と関連していると考えられています。
※2 α-シヌクレイン
正常では神経機能の調節に関わる分子。パーキンソン病では、異常に折りたたまれ凝集し、神経細胞内に蓄積する病原(変性)タンパク質。α-シヌクレインが異常に蓄積されることで、神経細胞の死が引き起こされ、運動障害などの症状が発症すると考えられています。
※3 ドパミン神経細胞
運動機能や姿勢維持を司る中脳・黒質に多く存在し、神経伝達物質であるドパミンを放出する神経細胞。パーキンソン病では、ドパミン神経細胞が死ぬことで、ドパミンの放出量や伝達機能が低下し運動機能障害が生じると考えられています。
※4 リソソーム
細胞内外から運ばれてきた不要な分子(異常タンパク質など)を分解する細胞内小器官。分解するための様々な消化酵素がリソソーム内に含まれています。
《共同研究グループ》
富山大学薬学部薬物生理学研究室の藤井拓人助教、酒井秀紀教授、同生命科学先端研究ユニットの田渕圭章教授、同医学部消化器・腫瘍・総合外科(第二外科)の藤井努教授、奥村知之講師、東京慈恵会医科大学の永森收志准教授、ウィリヤサムクンパッタマ講師、京都大学の竹島浩教授ら。
Comments