未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、
「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。
根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定
(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。
このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。
人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。
以下に、最新の科学知見をご紹介します。
腫瘍内リンパ球は乳がん生存率と相関することを発見
~さらなる腫瘍内リンパ球の働き解明に向けて~
概要
東京医科大学(学長:林由起子/東京都新宿区)乳腺科学分野 呉蓉榕 臨床助教、石川孝 主任教授らの研究グループは、ロズウェルパーク総合がんセンター (米国ニューヨーク州) 高部和明 主任教授、横浜市立大学 (神奈川県横浜市) 消化器・腫瘍外科学 押正徳 助教、遠藤格 主任教授、および兵庫医科大学 (兵庫県西宮市) 乳腺・内分泌外科学 永橋昌幸 准教授 および 三好康雄 教授らとの共同研究により、遺伝子発現パターンから推定した腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)量が、乳がんの生存率に関係することを証明しました。
この研究結果は、乳がんの予後予測や治療戦略の向上において新たな示唆を与える可能性があります。
研究の背景
腫瘍浸潤リンパ球(TIL)という免疫細胞は乳がんの治療効果や予後に関連します。従来TIL は、腫瘍周囲に存在するものが視覚的に評価されてきましたが、腫瘍内 TIL はばらついて存在するため評価が難しく、客観性にも欠けていることが問題となっていました。
そこで、研究チームは個々の腫瘍における遺伝子発現パターンを解析して腫瘍内 TIL を推定するスコアを開発し、より客観的な評価を試みました(図 1)。
図 1, 腫瘍内 TIL と間質性 TIL の模式図および病理標本
本研究で得られた結果・知見
本研究は、遺伝子発現パターンから腫瘍内 TIL を推定する TIL スコアを確立しました。TIL スコアを用いたところ、腫瘍内 TIL は悪性度の高い HER2 陽性、トリプルネガティブ乳がんで多く、悪性度の低い ER 陽性/HER2 陰性乳がんでは少ないことが判明しました。
一方で、腫瘍内 TIL が多い ER 陽性/HER2 陰性乳がんでは乳がん細胞増殖が促進していることがわかりました。手術前化学療法との関係では、腫瘍内 TIL は必ずしも完全奏功(がんの兆候がすべてなくなること)とは関連しませんでしたが、HER2 陽性、トリプルネガティブ乳がんにおいて腫瘍内TIL量は乳がん生存率と有意に相関することがわかりました(図2)。
図 2, 乳がんのサブタイプ別の全生存率と腫瘍内 TIL との関係
本研究のポイント
1.遺伝子発現パターンを用いて乳がん内に存在するリンパ球の客観的な評価に取り組んだ。
2.HER2 陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がん(TNBC)において、TIL スコアは生存率と
関連していた。
3.本研究の結果は腫瘍内 TILs の評価方法の改善や乳がんの治療戦略において新たな示唆を
与える可能性がある。
今後の研究展開および波及効果
本研究は、腫瘍遺伝子発現パターンを用いた腫瘍内 TIL の客観的評価によって、乳がんの生物学的特徴のさらなる解明に一歩近づく重要な成果です。
今後は、腫瘍内 TIL の評価方法の改善や、さらなるメカニズムの解明に向けた研究が期待されます。
この研究の結果は、乳がんの予後予測や治療戦略の向上において新たな示唆を与える可能性があります。
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