未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、
「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。
根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定
(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。
このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。
人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。
以下に、最新の科学知見をご紹介します。
雪印メグミルク株式会社との産学協同研究講座において
ビフィズス菌 Bifidobacterium adolescentis※1 SBT2786 が
睡眠を促進することを確認
【概要】
睡眠不足およびその蓄積である「睡眠負債※2」は、生活や仕事のパフォーマンスの低下、脳の働きの低下、糖尿病などの生活習慣病のリスクの増加など、心身に様々な悪影響を及ぼすことが知られています。また、日本人の睡眠時間は短い傾向にあるとされており、睡眠は我が国において社会的な関心の高い健康課題の一つです。
名古屋大学と雪印メグミルクは、2017 年度に名古屋大学 大学院理学研究科付属ニューロサイエンス研究センターに産学協同研究講座「栄養神経科学講座」を開設し、睡眠をはじめとする“脳や神経”に関する健康課題を解決するための研究を推進してきました。
これまでに、当該協同研究講座ではヒトと共通する多くの行動・分子機構を備えているショウジョウバエを用いた研究において、雪印メグミルク保有の乳酸菌株Lactiplantibacillus plantarum SBT2227 を餌として与えることで夜間の睡眠を促進することを見出しています。
さらに今回、ヒトや食品などから分離された乳酸菌・ビフィズス菌から、BA2786 を最も睡眠促進効果を大きい菌株として選別し、BA2786 の効果が加熱殺菌しても維持されることと、効果の一部はインスリン経路を介したものである可能性を明らかにしました。
【研究成果と意義】
今回の研究では、ヒトや食品などから分離された多くの乳酸菌・ビフィズス菌について調べ、これまでに見出した乳酸菌株 SBT2227 (L.plantarum)よりも効果の大きい BA2786(B.adolescentis)を発見しました。
さらにその効果は哺乳類にも共通して存在するインスリン経路が関与している可能性を明らかとしました。これらの結果は、BA2786 がヒトにおいても同様の効果を示す可能性があること、食品やサプリメント等への加工においても利用可能であることを示唆するものです。
ショウジョウバエの行動は単純なシステムで制御されているため、作用機序などの詳細な研究が可能です。今後はショウジョウバエからヒトまで共通する睡眠の仕組みの解明、そこに対する乳酸菌・ビフィズス菌の作用の解明も期待されます。
さらには、消費者の睡眠ニーズを満たす商品の実用化による社会への貢献も期待されます。
【研究内容】
研究の結果、睡眠を促進する作用が最も大きい菌株として BA2786 を選別し、さらに調べたところ、以下のことが分かりました。
BA2786 は、加熱殺菌してもショウジョウバエの睡眠を促進すること。
BA2786 と同じ菌種であるBifidobacterium adolescentisに属するにもかかわらず、睡眠促進効果の弱い菌株があり、この菌株と、BA2786 についてショウジョウバエの遺伝子発現に及ぼす変化を比較解析した結果、BA2786 を摂取したショウジョウバエにおいてインスリン受容体の遺伝子発現が亢進していること。
BA2786 の睡眠促進作用の一部は、インスリン経路を介している可能性があること。
インスリン経路はショウジョウバエと哺乳類で類似しています。このことは、BA2786 が哺乳類に対しても睡眠を促進する可能性を示唆するとともに、今後 BA2786 の睡眠促進作用についてより詳細に調べることでインスリン経路と睡眠の関係の理解が深まると考えられます。
研究グループ
国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学(総長:杉山直、以下「名古屋大学」)と雪印メグミルク株式会社 (代表取締役社長:佐藤雅俊、本社:東京都新宿区、以下「雪印メグミルク」)。
用語説明
※1 Bifidobacterium adolescentis(ビフィドバクテリウム アドレセンティス):
ヒト成人の腸管に生存するビフィズス菌の優勢種の一つです。
※2 睡眠負債:
睡眠不足が蓄積し、心身に悪影響が及ぶ可能性のある状態のことです。日本の睡眠不足
による経済損失は 880~1380 億ドルで GDP の 1.86~2.92% に相当するとの試算結
果もあります。
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