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健康を科学で紐解く シリーズ145 「東南アジアのショウガに抗がん効果を確認!」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 



東南アジアのショウガに抗がん効果を確認!

~新たな抗がんマーカー発見の可能性も~




発表のポイント


1.ショウガ科の熱帯植物 Kencur(ケンチュール)の抗がん効果を検証。


2.細胞実験・動物実験で、ともにがん細胞の増殖抑制を確認。


3.食品成分による抗がん作用メカニズムに新たな知見。




概要


 大阪公立大学大学院生活科学研究科の佐々木 裕太郎大学院生(博士後期課程 1 年)、小島明子准教授らの研究グループは、主に東南アジアで栽培され、スパイスや漢方薬として使用されているショウガ科の熱帯植物 Kencur(ケンチュール)の抗がん効果について、細胞実験と動物実験で検証し、Kencur 抽出物およびその主要活性成分が、細胞レベル・動物レベルでがん細胞の増殖を有意に抑制することを明らかにしました。さらに、その作用メカニズムにおいて、ミトコンドリア転写因子A(TFAM)※遺伝子の関与が確認できました。


TFAM 遺伝子ががん細胞の増殖に重要な役割を果たしていることはこれまでの研究ですでに知られていましたが、食品成分による TFAM 遺伝子の抗がん効果への関与については解明されていませんでした。本研究成果は、Kencur の抗がん作用を明らかにするだけでなく、TFAM 遺伝子が抗がん効果の新しいマーカーとなる可能性も示唆するものです。


Kencur

(学名:Kaempferia galanga L.)














研究者からひとこと


 抗がん効果を有する食品成分を見いだすことで、がんの予防に少しでも貢献できればと思っています。今後も食品成分がもつ生活習慣病の予防効果と、その作用メカニズムについての研究を継続していきます。




研究の背景


 日本人の死因第 1 位であるがんは、罹患者数および死亡者数が年々増加の一途を辿っています。がんの死亡率を低下させるためには、まず、発症の予防が重要です。

がんの発症予防と食生活には関連性が認められており、植物性食品についても、その抗がん効果に近年注目が集まっています。


Kencur は主にインドネシアなど東南アジアで栽培されているショウガ科の熱帯植物で、その根茎は料理のスパイスや漢方薬として使用されています。また、Kencur の生理作用として、抗炎症作用や抗酸化作用が報告されていますが、抗がん効果については明らかにされていませんでした。




研究の内容


 本研究では、マウス由来のエールリッヒ腹水がん細胞(EATC)を用いた細胞実験と、EATC を腹腔内投与し作製した担がんモデルマウスを用いた動物実験でその効果を検討しました。

その結果、Kencur 抽出物およびその主要活性成分である Ethyl p-methoxycinnamate(EMC)は細胞レベル・動物レベルでがん細胞の増殖を有意に抑制することが明らかとなりました。また、その作用メカニズムにおいては、TFAM 遺伝子の発現量減少に EMC が関与していることが確認できました。これまでの研究では、遺伝子工学によって TFAM 遺伝子ががん細胞の増殖に重要であることが知られていましたが、食品成分による抗がん効果における TFAM 遺伝子の関与については解明されておらず、本研究はこの点において画期的です。さらに、TFAM 遺伝子発現量の減少は、ミトコンドリアの機能障害を誘発するのではなく、細胞周期調節因子(Cyclin D1 と p21)の発現を制御することによって、DNA 合成準備期(G1 期)から DNA 合成期(S 期)への移行を阻止していることを明らかにしました(図)。


図:EMC による抗がん作用メカニズム

EMC は H-ras 遺伝子の発現を低下させ、c-Myc の Ser62でのリン酸化を抑制。その結果、c-Myc の転写活性が低下し、c-Myc の標的遺伝子である TFAM 遺伝子の発現が低下する。TFAM 遺伝子の発現低下は Cyclin D1 の発現低下と p21 の発現上昇を誘導し、細胞周期の S 期への進行を阻害する。




期待される効果・今後の展開


 本研究成果により、Kencur 抽出物およびその主要活性成分である EMC による抗がん作用が確認されました。


今後、関連分野の研究進捗により、TFAM 遺伝子が抗がん効果を示す新しいマーカーとなることも大いに期待されます。




用語解説


※TFAM 遺伝子(ミトコンドリア転写因子 A):


ミトコンドリア DNA の遺伝子発現を安定化する作用と、本研究で明らかとなった細胞周期調節因子の発現を制御する作用を有する。

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