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健康を科学で紐解く シリーズ149 「呼吸パターンが記憶力の強化と悪化の両側面を引き起こすことを発見」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 



呼吸パターンが記憶力の強化と悪化の両側面を引き起こすことを発見




 兵庫医科大学(所在地:兵庫県西宮市、学長:鈴木敬一郎)医学部 生理学生体機能部門 中村 望助教らの研究グループは、 自然科学研究機構 生理学研究所との共同研究で、呼吸中枢を操作して呼吸パターンを様々に変えると、記憶力が強化されたり、記憶の形成が妨げられて記憶力が低下したり、あるいは間違った形で記憶が作られてしまうことを発見しました。




研究概要


 これまで我々の研究グループは、認知機能の低下の原因の一つが不適切な呼吸であることを発見しました。今回さらに「呼吸を自在に操作することで、記憶力に変化が生まれるか」について調べました。


我々は、遺伝子を改変した特殊なマウスと光遺伝学(オプトジェネティクス)という技術を用いて、マウスの呼吸を自在に操作する実験を行いました。その結果、マウスが記憶する瞬間に呼吸を停止させると、記憶力が低下するという驚きの結果が示されました。

さらに、それは海馬ニューロン活動レベルでも明らかになりました。加えて、呼吸の頻度やパターンを変えると、記憶力の強化と悪化の両側面が引き起こされることもわかりました。


これにより、脳幹の呼吸中枢(プレベッツィンガ―複合体)に由来する呼吸活動は、覚醒下(起きている状態)の脳に作用し、記憶や思考に関わる情報処理をある一定の単位としてまとめる役割だけでなく、一定の単位のまとまりそのものを新しく作り出す「トリガー(スタートボタン)の役割」を果たすことが考えられます。


今後、呼吸と認知機能の相互作用の重要性を示す脳内メカニズムを明らかにするとともに、呼吸法はストレス低減効果をもつことから、呼吸法を用いたうつ病などの精神疾患対策や治療に応用していきたいと考えています。


イメージ図:

呼吸活動(特に吸息活動)が、記憶形成の

トリガー(スタートボタン)の役割を果たす








研究背景


 呼吸は、生命維持において必須な活動ですが、その制御は無意識下に行われるだけでなく、意識的にもコントロールできる二重支配です。覚醒下での呼吸の役割の詳細については明らかになっていませんが、近年、課題などを行っている最中の脳の状態(脳のオンライン状態という)において、呼吸は重要な役割を果たすことが示唆されています。


これまで我々の研究グループは、ヒトの呼吸、特に息を吸う瞬間が課題を取り組んでいる途中で入り込むと、集中力・注意力を司る脳活動の低下とともに、記憶力が低下することを明らかにしました(Nakamura et al., 2018, 2022)。これは、息を吸う瞬間が脳の情報処理のリセットに関与し、課題遂行の途中で入り込むと、情報処理がうまくいかなくなることが考えられます。今回、マウスを用いて、呼吸活動を直接コントロールすることで、記憶力に直接関わる記憶形成そのものに変化が生まれるか、また記憶力を自在に操ることができるかについて調べました。




研究手法と成果


 我々の研究グループは、最初に遺伝子を改変した特殊なマウスを用いて、呼吸を数秒間停止できるかどうかの実験を行いました。オプトジェネティクスという技術を用いて、遺伝子改変マウスの延髄にある呼吸中枢に光を照射すると、強制的に呼吸をコントロールできることがわかりました。次に、マウスを対象に記憶課題を行い、記憶する瞬間に呼吸を停止させました。すると、記憶力が低下するだけでなく、その神経基盤である海馬ニューロン活動においても、その変化が観察されるという驚きの結果が示されました。さらに、呼吸の頻度をほとんど変えずに呼吸の周期性をランダムにした結果、記憶力が強化されました。一方で呼吸の頻度を強制的に半分に減らした場合は、記憶が間違った形で作られてしまうことが明らかになりました。


これにより、呼吸の活動は、記憶を形づくる「トリガーの役割」を担い、このトリガーがないと記憶が形成されないことがわかりました。また、呼吸リズムやタイミングが適切でないと、記憶や思考など、ある一定の単位ごとのまとまりを作るのがうまくいかなくなり、その結果、記憶力の低下につながる可能性が示唆されました。




本研究成果の意義


 本研究成果は、呼吸が認知機能に対して重要な役割を果たすことを示したものであり、さらには別の上位中枢機能である情動(感情に関連する反応)や日々の生活におけるメンタルヘルスにも関与することが十分に考えられます。今後、呼吸によるストレス緩和や精神疾患対策などの効果を明らかにしていくことで、あらゆる人々のQOL(生活の質)の向上に貢献することが期待されます。

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