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健康を科学で紐解く シリーズ152 「発酵米糠は炎症を抑制し破骨細胞形成および病的骨吸収を制御する」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


発酵米糠は炎症を抑制し破骨細胞形成および病的骨吸収を制御する

〜食による骨破壊制御に期待〜




発表のポイント


1.発酵米糠の摂食により炎症を促進するサイトカインである TNF-α(注 1)の発現を抑制する

 ことをマウスを用いた実験で発見しました。


2.発酵米糠の摂食により炎症による破骨細胞形成および骨吸収を抑制することを発見しまし

 た。


3.発酵米糠抽出物は、破骨細胞形成を抑制することを発見しました。


4.発酵米糠抽出物は、炎症刺激によるマクロファージからの TNF-α の発現を抑制するこ

 とを発見しました。


5.食による病的な骨破壊の抑制に役立てることが期待できます。




概要


 近年、急激な高齢化に伴い基礎疾患をもつ患者が増加しており、骨粗鬆症など様々な骨代謝疾患をもつ患者が増加しています。さらに関節リウマチおよび歯科領域では歯周病、易感染宿主が増加し、様々な感染症等では、病的な骨吸収(骨の破壊)が生じて機能障害を引き起こします。このような機能障害を引き起こす病的な骨吸収を抑えるために様々な薬剤の投与が行われていますが、より簡便におこなえる食物摂取による抑制や予防が望まれています。


 東北大学大学院歯学研究科顎口腔矯正学分野の野口隆弘助教、北浦英樹准教授および溝口到教授の研究グループ、東北大学大学院農学研究科栄養学分野の白川仁教授の研究グループは、世界初の学際共創科学「食学(Shoku-gaku)」の活動拠点である「革新的食学拠点」での共同研究を行い、様々な生物学的活性をもつとの報告がある発酵米糠の摂取が病的な破骨細胞形成および骨吸収を抑制することをマウスを用いて見出し、その仕組みを初めて明らかにしました。


これらの成果は、食によって病的な骨破壊抑制あるいは予防に役立つと期待できます。




研究の背景


 超高齢社会を迎え、基礎疾患をもつ患者の増加により、それに伴う骨粗鬆症、関節リウマチ、歯周病など病的な骨の破壊を伴う疾患が問題となってきています。


これらの病的な骨吸収の抑制には、様々な薬剤の投与が行われていますが、より安全で簡便な食物摂取からその抑制また予防がおこなえることが望まれています。




今回の取り組み


 米糠は、生理活性成分を多く含むものとして知られています。たとえば、食物繊維、ビタミン、各種アミノ酸、抗酸化物質などを含み胃腸の健康を促進すると報告されています。


この米糠は一部米糠油の原料となりますが、多くは動物の餌などになります。そこでこの米糠を発酵させることで人への利用により適するように、麹かび Aspergillus kawachii で発酵させ、さらに乳酸菌混合物(Lactobacillus brevis, Lactobacillus rhamnosus, Enterococcus faecium)を加え発酵させ、殺菌後、濾過して凍結乾燥させたものを発酵米糠として開発しました。

この二段階で発酵させる特殊な発酵米糠は、メタボリックシンドローム改善作用、サルコペニア改善作用、潰瘍性大腸炎予防および改善作用など、様々な生理活性があることが報告されています。


東北大学大学院歯学研究科顎口腔矯正学分野野口隆弘助教、北浦英樹准教授および溝口到教授の研究グループ、東北大学大学院農学研究科栄養学分野白川仁教授の研究グループは、共同研究において、マウスに二段階発酵米糠とコントロール食を食べさせ、一週間後にマウス頭蓋部に毎日 5 日間炎症を誘導する LPS(注 2)を投与し、炎症を誘導し破骨細胞形成を行ないました。

その結果、破骨細胞形成および骨吸収が抑えられました。次にマウスから骨髄細胞を採取し、破骨細胞前駆細胞を調整し、in vitro の実験で破骨細胞形成を行い、その培養液に発酵米糠抽出物をいれ、破骨細胞形成を観察したところ、破骨細胞形成が抑制されました。

これにより、発酵米糠の成分が直接、破骨細胞形成を抑制できることがわかりました。


発酵米糠の成分が直接作用して破骨細胞形成を抑制できることは新しい発見です。




今後の展開


 今回の研究結果により、発酵米糠の摂取は、病的な骨吸収を伴う疾患(骨粗鬆症、関節リウマチ、歯周病等)の骨破壊を抑制することが期待できます。これらの実験モデルを使用し、効果を検証し、実用化を目指します。


さらにその成分は直接破骨細胞形成を抑制できることから、新規有効成分の発見が期待されます。新規有効成分を様々な分画から探索し、その効果を検証していく予定です。




図 1. 発酵米糠食は炎症による破骨細胞形成および骨吸収を抑制



図 2. 発酵米糠抽出液は TNF-α により誘導される破骨細胞形成を抑制



図 3. 発酵米糠はマクロファージからの

  TNF-α 発現および破骨細胞形成を

   抑制して病的骨吸収を抑制する















用語説明


注1. TNF-α:

tumor necrosis factor-α、腫瘍壊死因子 炎症を誘発するサイトカインの一つ。骨を吸収する破骨細胞形成を誘導することも報告されています。


注2. LPS:

Lipopolysaccharide、リポポリサッカライド 大腸菌などのグラム陰性菌の細胞壁を構成する成分の一つ。内毒素とも呼ばれ、炎症を誘導することが報告されています。


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