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健康を科学で紐解く シリーズ157 「動物種特異的非翻訳 RNA・miR-514a の神経発達促進作用の発見」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 



動物種特異的非翻訳 RNA・miR-514a の神経発達促進作用の発見

―ヒトiPS細胞由来神経細胞を用いた解析―




 旭川医科大学小児科学講座の赤羽裕一大学院生、高橋悟教授、名古屋大学大学院理学研究科の辻村啓太特任講師、大阪大学高等共創研究院の鈴木啓一郎特命教授、慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センターの小崎健次郎教授らの研究グループは、ヒト iPS 細胞由来神経細胞をモデルとしてmiR-514a が神経発達促進作用を持つことを発見しました。

miR-514a はこれまでにいくつかの癌で機能解析が行われていましたが、中枢神経系における役割は未解明のままでした。


研究グループは miR-514a が高度な知能や社会性を有する動物において保存され、ヒトやチンパンジーでコピー数が特に増加していることに着目し、複数系統のヒト iPS 細胞由来神経細胞を用いて miR-514a が神経細胞の神経突起形成や mTOR シグナル注 1)活性を亢進させることを見出しました。さらに miR-514a 配列の種間比較を行い、進化の過程で保存された領域の配列変化が成熟型 miR-514a の発現量の増減に寄与することを示しました。これらの結果は miR-514a が神経発達・高次脳機能発現に重要な役割を持つことを示唆しており、今後のマイクロ RNA 注 2)を基盤とした神経発達症の病態解明や治療法開発に大きく貢献することが期待されます。




発表のポイント


1.知的機能が高度に発達している動物で保存されているマイクロ RNA の一つ miR-514a

 の神経発達促進作用を発見した。


2.miR-514a の機能阻害は神経発達を抑制することを見出した。


3.miR-514a が進化の過程における高次脳機能発現に重要な役割を果たす可能性を示唆し

 た。




研究の背景


 タンパク質をコードしない非翻訳 RNA の一種であるマイクロ RNA (miRNA)は特定の遺伝子のメッセンジャーRNA (mRNA)に相補的に結合し、遺伝子発現を調節することで様々な生物学的プロセスに関与しています。近年 miRNA 研究は脳神経領域においても盛んに行われ、miRNA が様々な神経疾患の病態に関与することが示唆されています。miR-514a は知的機能が高度に発達した動物で保存されている miRNA であり、霊長類、特にヒトやチンパンジーにおいてコピー数の重複が確認されています。しかし、miR-514a の中枢神経系における機能は未解明でした。

そこで研究グループは miR-514a の神経細胞における機能解析を行いました。




研究の成果


 miR-514 はマウスなどの齧歯類ゲノムに存在しないことや高度な知能や社会性を有するヒトやチンパンジーにおいてコピー数が特に増加していることから、複数系統の健常者由来ヒト iPS 細胞を神経細胞に分化誘導し、機能解析に用いました。

miR-514a の過剰発現は iPS 細胞から神経細胞への分化を促進し、神経突起形成・細胞体サイズ・mTOR シグナル活性を亢進させることを発見しました(図1)。逆に miR-514a の機能を阻害すると、これらの効果は消失し、神経発達は抑制されることを確認しました。さらに霊長類の進化の過程で保存された領域の変異体を用いた実験では、miR-514a の配列変化が成熟型 miRNA の発現を減少させることも見出しました。これらの結果は、miR-514a が神経細胞の発達に重要な役割を持ち、高次脳機能の発現に関与していることを示唆しています。


図1 miR-514a の神経発達促進効果. ヒト iPS 細胞由来神経細胞に miR-514a を過剰

  発現させると神経突起伸長が促進される(右)。



概要図





今後への期待


 神経発達症を呈する未診断疾患では、タンパク質をコードする遺伝子の網羅的解析(全エクソーム解析)を行っても病因遺伝子が同定される割合は半数以下にとどまっています。


今回の研究成果は、神経発達症の病態にタンパク質をコードしない非翻訳 RNA である miRNA が関与している可能性を示すものであり、その病態解明や治療法開発に向けては miRNA を標的とする新しい展開が期待されます。




用語説明


注1)mTOR シグナル:

哺乳類などの細胞内シグナル経路の一つで、細胞成長・増殖において中心的な役割を担う。癌、代謝性疾患、老化等の他に脳形態や脳機能にも重要な役割を持つ。


注2)マイクロ RNA (miRNA):

18 から 22 塩基ほどの短い 1 本鎖 RNA でタンパク質をコードしない非翻訳 RNA の 1 つである。ヒトでは約 2700 種が確認されており、相補的配列をもつメッセンジャーRNA に結合し、遺伝子の発現を抑制的に調節している。

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