未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、
「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。
根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定
(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。
このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。
人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。
以下に、最新の科学知見をご紹介します。
骨肉腫発症の根本を制御する転写因子間の相互作用の解明
医歯薬学総合研究科分子硬組織生物学分野の伊藤公成教授(大谷昇平助教,伊達悠貴学振特別研究員PD,および口腔腫瘍治療学分野の大森景介助教)らのグループは、代表的なヒト「希少がん」として知られる骨肉腫に関して、その発症を制御する「がん遺伝子」「がん抑制遺伝子」間の新規な転写因子相互作用を解明しました。
背景
骨肉腫は主に小児をはじめ若年層に発症が多く、生存できても四肢の切除手術など、若くして失うものの影響は大きいため、効果的な治療法の開発は急務です。ヒトがんにおいて最も普遍的な「がん抑制遺伝子」として知られるp53遺伝子の不活性化が、骨肉腫において高頻度に観察されますが、「希少がん」ゆえ国内外で骨肉腫の研究者人口は少なく、そのp53遺伝子の異常に続く腫瘍発症機構は、残念ながらほとんど解明されておりません。
研究成果・概要
骨芽細胞特異的p53遺伝子欠損マウス(OSマウス)(図1)は、100%に近い個体がヒト骨肉腫に酷似した腫瘍を発症するため、ヒト骨肉腫の動物モデルとして使用されています。
そこで骨肉腫発症の分子メカニズムの解明を目指し、このOSマウスを解析したところ、p53不活性化後に起こる腫瘍化プロセスの根本は、がん関連転写因子Runx3による、ゲノムDNA上の特定エレメントmR1(3)を介した、強力な「がん遺伝子」c-Myc (Myc)の過剰発現であることが判明しました(図2)(2)。
そして、脂肪分化マスターレギュレーターとして知られる転写因子C/ebpαも、p53と同様に、Runx3をターゲットにしてタンパク質―タンパク質相互作用を示し、Runx3の機能を阻害することで「がん抑制遺伝子」として機能していることが明らかになりました(図3)(1)。すなわち、p53非存在下でのRunx3によるmR1を介したMycの過剰発現は、肉腫発症の根本にある発がん機軸であると考えられます。
今後の展開
抗腫瘍効果を期待した創薬研究は数多く、その標的として「がん抑制遺伝子」p53の賦活化や「がん遺伝子」Mycの機能阻害をめざした創薬が試みられてきました。しかしながら両者とも多機能転写因子であるため、それらの機能を人為的に操作すると正常細胞への副作用が強いことから、いずれも奏功していないのが現状です。そこで今回の一連の研究成果から、新たなる標的として,両者を結びつけ、腫瘍の発症へと導く仲介役としてのRunx3の機能あるいはゲノム上の特定エレメントmR1が注目され、その効果的な阻害剤の開発が待たれます(図4)(4)。
そもそも正常細胞では、Runx3の機能はp53やC/ebpαによって阻害されているため(図2,3)、Runx3の機能阻害による正常細胞への副作用は小さいことが期待できます。また、Runx3はp53欠損膵がんにおいて悪性化(転移)促進因子として知られるようになりました(Cell 161; p1345-1360, 2015)。
本研究の成果は、骨肉腫のみならず、広くp53欠損型のヒトがんへの適用が期待できます。
Comments