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健康を科学で紐解く シリーズ167 「細胞間情報伝達関連分子とパーキンソン病関連分子との結合を発見」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


細胞間情報伝達関連分子とパーキンソン病関連分子との結合を発見

〜リン酸化酵素阻害剤オシメルチニブによりその結合が抑制される〜




研究成果のポイント


1.細胞間の情報伝達に関わる UBL3 が発現しないマウスの脳組織では、パーキンソン病の

 病態進行に関連するα-シヌクレインのリン酸化状態が、特定の脳領域で上昇しているこ

 とを明らかにしました。


2.UBL3 とα-シヌクレインが結合することを明らかにしました。


3.UBL3 とα-シヌクレインが結合することを、発光を用いて迅速に評価できる測定系を

 構築しました。


4.32 種の承認薬剤を使って UBL3 とα-シヌクレインの結合の変化を検証したところ、

 リン酸化酵素阻害剤のオシメルチニブが半分程度にまで結合を抑制することを明らかにし

 ました。


5.今回の研究成果は、パーキンソン病の病態進行を抑制する治療薬開発に貢献することが

 期待されます。




概要


 浜松医科大学医学部細胞分子解剖学講座(瀬藤光利教授)らの研究グループは、2018 年に細胞間情報伝達に関わることを発見した UBL3 タンパク質と、パーキンソン病の病態進行に関与することが知られているα-シヌクレインとが結合することを発見し、その結合が承認抗がん剤であるオシメルチニブによって抑制されることを明らかにしました。




研究の背景


 細胞よりも小さな膜小胞(エクソソームなど)によって、分子のやり取り(細胞間情報伝達)が細胞間で行われています。この細胞間情報伝達が、癌や神経変性などの病態が伝播していく機構に関わっていると考えられています。


浜松医科大学医学部細胞分子解剖学講座(瀬藤光利教授)らの研究グループは、2018 年に UBL3タンパク質が細胞間情報伝達に関わることを発見しました。この UBL3 を制御することで病態の伝播を抑制できると考え、UBL3 と結合する疾患関連タンパク質を継続して調査してきました。




研究の成果


 本研究では、まず、UBL3 が発現しないよう遺伝子改変させたマウスの脳組織で、パーキンソン病の病態に関連するα-シヌクレインのリン酸化状態が特定の脳領域(黒質)で上昇報道 発 表- 2 -していることを発見しました(図 1)。


図 1. (A)野生型マウスと UBL3 が発現しないよう遺伝子改変させたマウス(Ubl3 ノックアウトマウス、Ubl3-/-)の特定の脳領域(黒質)では、リン酸化α-シヌクレインが強く染色された。(B)数値化したもの。*p<0.05



 次に、UBL3 とα-シヌクレインが結合すると考え、その結合を生化学的に検証し確かめました。さらに、タンパク質同士が結合すると発光する技術を用いて、UBL3 とα-シヌクレインが結合することを迅速に評価できる測定系を構築しました(図 2)。


図 2. (A)UBL3 とα-シヌクレインの結合を発光により迅速に測定する方法。(B) UBL3(NGluc-UBL3)とα-シヌクレイン(α-syn-CGluc)の両方を培養細胞に発現させると、発光を検出(矢印)。



 この測定系を用いて、32 種の承認薬剤を使って UBL3 とα-シヌクレインの結合の変化を検証したところ、リン酸化酵素阻害剤のオシメルチニブが半分程度にまで結合を抑制することを明らかにしました(図 3)。


図 3. 32 種類の承認薬剤に対して、UBL3 とα-シヌクレインとの結合を評価。オシメルチニブは UBL3 とα-シヌクレインの結合抑制の度合いが大きかった。この後、細胞数で補正してみるとオシメルチニブ(矢印)が最も抑制効果を示す結果となった。




今後の展開


 運動機能障害などの症状が進行していくパーキンソン病では、神経細胞が変性死する病態の神経組織内伝播を抑制することは、重要な治療戦略の一つと考えられています。


今回の研究成果は、神経変性などの病態が伝播する際に関与するとされる細胞間情報伝達を標的とした新しいタイプの治療薬開発に貢献できることが期待されます。


また、既存薬や開発中もしくは開発中止となった医薬品・化合物を、当初想定していた疾患とは異なる疾患の治療薬として転用する「ドラッグリポジショニング」の観点から開発してくことも期待されます。




用語解説


UBL3:

117 個のアミノ酸からなる小さなタンパク質です。細胞外に放出される前の膜小胞(エクソソームなど)にタンパク質を輸送することが知られています。

パーキンソン病:

主に運動機能に障害があらわれます。患者さんの剖検脳を調べると、α-シヌクレインが凝集したものや神経細胞の変性死が観察されます。

オシメルチニブ:

非小細胞肺癌に対する治療薬剤。がん細胞の表面にある EGFR と呼ばれるリン酸化酵素を阻害します。

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