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健康を科学で紐解く シリーズ184 「肺障害を引き起こす化学物質の解毒や医薬品の副作用軽減に期待」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


昭和大学の研究グループが化学物質による肺障害の分子機構を解明

-- 肺障害を引き起こす化学物質の解毒や医薬品の副作用軽減に期待




研究の概要、内容、成果、今後への期待


 昭和大学(東京都品川区/学長:久光正)大学院生の冨塚祐希さん(薬学研究科衛生薬学分野4年)、桑田浩准教授(薬学部社会健康薬学講座衛生薬学部門)、原俊太郎教授(同)を中心とする研究グループは、農薬のパラコートや医薬品のメトトレキサートといった化学物質が肺障害を引き起こす分子機構を解明した。本研究成果は、肺障害を引き起こす化学物質の解毒や医薬品の副作用軽減に応用できる可能性があります。


農薬のパラコート(※1)や医薬品のメトトレキサート(※2)は、肺胞細胞の壊死や肺の線維化といった肺障害を引き起こすことが知られていますが、障害に至る詳細な分子機構は明らかになっていませんでした。本研究では、これらいずれの化学物質による肺障害発現においても、長鎖アシルCoA合成酵素(ACSL)4により制御される膜リン脂質の過酸化が重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

ACSL4は、細胞膜の主成分であるリン脂質に、アラキドン酸などの多価不飽和脂肪酸(※3)を取り込む際に重要な酵素です(関連文献1、2)。多価不飽和脂肪酸は、細胞のエネルギー源、あるいは細胞間で情報を伝達するメディエーターとして機能する一方で、化学的に不安定であり、活性酸素によって容易に過酸化脂質へと酸化されます。


本研究では、まずACSL4の遺伝子欠損マウスを用い、肺組織の膜リン脂質組成を解析しました。その結果、ACSL4欠損マウスでは野生型マウスと比較して、過酸化を受けやすい多価不飽和脂肪酸を含有するホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミンなどのリン脂質が減少することが明らかになりました。次に、各々のマウスにパラコートを投与したところ、ACSL4欠損マウスでは肺の炎症反応が軽減され、生存率が大幅に改善されることが示されました。同様にメトトレキサートを投与したときも、ACSL4欠損マウスにおいて肺の線維化が顕著に抑制されました。さらに詳しく解析したところ、パラコートやメトトレキサート投与時に野生型マウスの肺で過酸化脂質の生成が認められましたが、ACSL4欠損マウスではその生成が抑制されることを見出しました。

ACSL4遺伝子の欠損により肺の細胞膜リン脂質中に含まれる多価不飽和脂肪酸が減少することで、パラコートやメトトレキサート由来の活性酸素によって生じる肺毒性が顕著に軽減することが示唆されました。


本研究成果は、パラコートなど肺毒性を示す化学物質に対する解毒法の開発に加え、メトトレキサートをはじめ肺における副作用が問題となっているさまざまな医薬品の副作用軽減法の確立に役立つものと期待されます。



研究概要を示したイラスト


用語解説


※1 パラコート:

除草剤。選択的に肺に取り込まれやすく、致死率が非常に高いため、散布中の事故や自他殺目的での使用が社会問題となっている。毒物及び劇物取締法において、毒物に指定されている。


※2メトトレキサート:

抗リウマチ薬として世界的に最も使用されているほか、抗がん薬としても用いられる薬剤。副作用として、間質性肺炎が問題となっている。


※3 多価不飽和脂肪酸:

アラキドン酸やエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)など、分子の中に炭素-炭素二重結合を2つ以上もつ脂肪酸。二重結合をもたないステアリン酸やパルミチン酸に比べて、酸化されやすく、不安定である。


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