top of page

健康を科学で紐解く シリーズ187 「ビタミンDサプリでp53過剰発現に抗体を持つ消化管がん患者の再発死亡リスクが73%も減少」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


ビタミンDサプリでp53過剰発現に抗体を持つ消化管がん患者の

再発死亡リスクが73%も減少

治療後がんの再発や転移の予防が可能に




 東京慈恵会医科大学分子疫学研究部浦島充佳教授らは、p53 癌抑制蛋白異常発現に対して免疫反応している消化管がん患者がビタミン D サプリメント 2,000IU の連日内服した場合、プラセボ(偽薬)に比べて再発・死亡リスクが 73%減少していたことを二重盲検ランダム化プラセボ比較試験の事後解析により明らかにしました。



発表のポイント


1.p53 がん抑制蛋白が過剰発現し、かつ抗 p53 抗体を持つがん患者のグループでは

 再発死亡リスクはそれ以外のグループと比較して約 3.5 倍でした。


2.がんが再発しやすいこのグループでは、ビタミン D サプリメントの連日内服により

 がんの再発死亡リスクが 73%減少し、再発し難いグループとほぼ同等となりました。


3.ビタミン D サプリメントにより、がんに対する免疫が活性化され、治療後がんの再発

 あるいは遠隔転移を予防できることが示されました。  




東京慈恵会医科大学分子疫学研究部 教授 浦島充佳 のコメント


 過去ビタミン D サプリメントの癌再発予防の研究を継続してまいりました。もしも、ビタミン D サプリメントが癌の再発を抑制するとしたら、そのメカニズムは何なのか?ということが常に念頭にありました。今回の研究結果より p53 癌抑制遺伝子変異☞p53 癌異常蛋白発現☞抗腫瘍免疫が反応☞ビタミン D が抗腫瘍免疫を増強する☞再発リスクを抑制 といった構図が浮かび上がりました。

p53 癌抑制遺伝子変異があると再発リスクが高く、逆にこのようなリスクの高い患者さんにビタミン D が有効であるとしたら朗報です。しかも 73%も抑制したという他の研究でも類をみない極めて高い効果です。

ボストン大学医学部のホリック教授からは「この結果はゲームチェンジャー」になり得ると高い評価をいただきました。しかし、これは事後解析の結果なので、本当かどうかを確認する必要があります。p53 が過剰発現している場合で本当にビタミン D サプリメント投与が効くのか?を明らかにするべく 2022 年 1 月より第 2 弾となるアマテラス 2 試験を開始しています。




詳細


 p53 癌抑制遺伝子はがんの中で最も変異頻度が多く(全癌種の 30~50%程度)、かつ再発率が高いことがよく知られています。また p53 癌抑制遺伝子に蛋白の構造異常を伴うような変異があると p53 癌抑制蛋白が過剰発現することも判っています。

今回、病理免疫組織化学の p53 染色程度によって (A)p53 の過剰発現、(B)p53 の中等度発現、(C)p53 のわずかな発現、(D)p53 の無発現の 4 つのグループに分けて解析しました。この 4 グループで比較すると p53 が多く発現したグループほど再発死亡率が高くなる傾向にありました。

また、病理検体の免疫染色を行い、p53 癌抑制蛋白が発現していた場合を調べると、血中抗 p53 蛋白抗体の濃度が顕著に上昇していました。これにより、変異した p53 遺伝子から作られる蛋白を免疫細胞が異物として認識していることが示されました。

(A)p53 の過剰発現のグループのうち、更に血中から抗 p53 抗体が検知できた患者集団について再発死亡リスクを比較すると、他より約 3.5 倍高くなりました。(Hazard ratio=3.46,95% CI,1.78-6.73)更に、この患者集団に注目して、ビタミン D サプリメントの連日服用とプラセボで比較したところ、ビタミン D を服用した患者はがんの再発死亡リスクが 73%低くなりました(図)。これはビタミン D サプリメントが抗腫瘍免疫を活性化して患者予後を改善することを示します。

一方、それ以外の場合ではビタミン D サプリメントとプラセボで再発死亡リスクはに差はなかったため、ビタミン D サプリメントは特にがんが再発しやすい患者に有効であることが判りました。


図. 過剰発現免疫反応群のビタミン D サプリメントの再発死亡リスク抑制効果




<アマテラス試験>


ビタミンDは日光にあたることにより皮下でつくられ、日本で実施される試験であることから、天照大神にあやかりアマテラス試験と名付けました。2010 年から 8 年間データを蓄積し食道から直腸に至る消化管癌患者 417 人に対してビタミンDサプリメント(2,000IU/day)とプラセボ群に 3:2 の割合で振り分け、再発あるいは死亡の数を比較するものです。ビタミンD群は術後 2 週間前後より試験用サプリメントの内服を開始しました。その結果、ビタミンD群の 5 年無再発生存率は 77%、プラセボ群では 69%と、ビタミンD群は再発・死亡がプラセボ群と比較して 8%少なくなりましたが、統計学的に有意といえる程ではありませんでした(P=0.18)。この結果は 2019 年にアメリカ医師会雑誌(JAMA)で発表されました。

<アマテラス2試験>


アマテラス試験の事後解析で立てた2つの仮説を証明するべく、2022 年 1 月より慈恵医大附属病院と国際医療福祉病院の多施設共同研究という形でアマテラス2試験(JK121-009, jRCTs031210460)を開始しました。癌患者、特に p53 陽性癌患者において術後 2 か月以内から試験終了までビタミンDサプリメント(2000 IU/day)を連日長期投与する群と、プラセボを投与する群にランダムに振り分け、遅発性(投与開始から 365 日以降)の再発、あるいは全ての原因による死亡ハザード・リスクを比較し、ビタミンDサプリメント投与の有効性を検討します。また、有害事象(高カルシウム血症等)の発現率を群間で比較し、ビタミンDサプリメント投与の安全性についても検討します。

閲覧数:0回0件のコメント

Comments


Commenting has been turned off.
bottom of page