top of page

健康を科学で紐解く シリーズ193 「人の意思決定は眼球運動に現れることを発見」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


人の意思決定は眼球運動に現れることを発見 ー心の可視化に近づく成果ー




発表のポイント


1.「目に見えない心の中のプロセスである意思決定(注 1)をどうすれば可視化できるか?」

 は人間の行動理解に向けて明らかにすべき大きな課題の一つです。


2.意思決定と関連のない運動行為(眼球運動(注 2)や手の到達運動(注 3))を行っている

 場合でも、眼球運動は意思決定の影響を受け続けることが明らかになりました。


3.人間の行動の方向性を決める意思決定が、目に見える運動行為である眼球運動にだけ影響

 を与えることから、この研究成果は眼球運動が目に見えない心の中の意思を読み取る窓に

 なる可能性を示しています。




概要


 意思決定は自らの判断を決定することであり、人間の行動にとって不可欠な認知プロセスです。このプロセスの可視化は意思決定を理解する上で重要です。意思決定の可視化により、人が次に何をしようとしているか、何を考えているかを先読みして対策を講じることができ、例えば、メンタルケア支援、認知症ケア支援、犯罪予防などに役立つと考えられます。しかし、どうすれば意思決定を可視化できるかは大きな課題となっています。

通常は形成された意思決定に基づいて運動行為が計画され実行されます。そのため従来の研究では、意思決定と関連のない運動行為は意思決定の影響を受けないと考えられていました。


東北大学大学院情報科学研究科の松宮一道教授の研究グループは、意思決定が、その意思決定と関連のない運動行為(実際には、眼球運動と手の到達運動)にどのような影響を与えるのかを研究しました。その結果、今回の実験対象のうち眼球運動が意思決定の影響を受けることを明らかにしました。


本成果は、眼球運動から目に見えない心の中の意思を推定できる可能性を示しています。




研究の背景


 意思決定は、感覚器官を通して知覚した外界情報をもとに自らの判断を決定することであり、人間の行動にとって不可欠な認知プロセスです。このプロセスは目に見えないため、どうすれば可視化できるかは人間の行動理解に向けて明らかにすべき大きな課題の一つとなっています。

意思決定を可視化できれば、人が次に何をしようとしているか、何を考えているかを先読みして対策を講じることができます。例えば、メンタルケア支援、認知症ケア支援、犯罪予防などに役立つと考えられます。


通常は、心の中で形成された意思決定に基づいて運動行為が計画され実行されます。例えば、視覚情報に基づいてどこに視線を向けるかを決定した後、眼球運動が実行されます。

そのため、従来の研究では、意思決定と関連のない運動行為は意思決定の影響を受けないと考えられていました。例えば、視覚情報として提示された選択肢の中から好みのものを 1 つ選んでおいても、その選択したものと無関係なところに視線を向けるような場合は、その運動行為は意思決定の影響を受けないと考えられていました。




今回の取り組み


 東北大学大学院情報科学研究科の松宮一道教授の研究グループは、視覚に基づく意思決定から連続的に影響を受ける眼球運動と手の到達運動に着目し、それらの運動が直前に行った意思決定課題と関連がない場合にその意思決定の影響をどのように受けるかを調べました。その結果、眼球運動と手の到達運動が直前に行った意思決定課題と関連がなくても、眼球運動だけが意思決定の影響を受け、手の到達運動は意思決定の影響を受けませんでした。

過去に行われた従来の実験では「運動時の意思決定」を調べていましたが、本研究グループが行なった実験ではその論理を逆にして「意思決定時の運動」を調べました。具体的には、視覚運動刺激の運動方向判断の意思決定を行っている間に、その意思決定と関連がない眼球運動と手の到達運動を行い、それらの運動の反応を計測しました。


実験結果を図 2 に示します。意思決定あり条件では、実験参加者は視覚運動刺激の運動方向を判断する意思決定課題を行い、その間に、その刺激の運動方向判断と関連がない眼球運動と手の到達運動を行いました。意思決定なし条件では、実験参加者は視覚運動刺激を観察しますが、その刺激の運動方向を判断する必要はありませんでした。図 2 のグラフの横軸は視覚運動刺激の運動方向判断の難易度を示し、縦軸は眼球運動と手の到達運動の反応時間を示します。これらの結果より、今回の実験対象のうち眼球運動だけが意思決定あり条件で運動方向判断の難易度に影響されていることがわかります。


図 1. 意思決定後に、直前に行った意思決定と関連がない眼球運動と手の到達運動を

     同時に行うと、このうち眼球運動だけが意思決定の影響を受ける



 本研究は、今回の実験対象のうち眼球運動だけが意思決定と強い結びつきがあることを示しています。たとえ意思決定と関連のない、眼球運動や手の到達運動といった複数の運動行為を実行しているときでも、意思決定の信号が連続的に眼球運動システムに流れていると考えられます。そのため、眼球運動からリアルタイムに目に見えない心の中の意思を推定できる可能性が示唆され、眼球運動が意思決定の読み出しに適した運動行為であると考えられます。


図 2.実験結果の概要。実線が意思決定あり条件、破線が意思決定なし条件を示す。グラフの横軸は視覚運動刺激の運動方向判断の難易度を示し、縦軸は眼球運動と手の到達運動の反応時間を示す。手の到達運動と眼球運動のうち、眼球運動だけが意思決定あり条件で運動方向判断の難易度に影響されていることがわかる。




今後の展開


 今回の実験では、視覚運動刺激の運動方向を判断する自覚的な意思決定を用いて実験をしましたが、意思決定には無自覚なプロセスも存在します。

今後の実験では、この無自覚なプロセスを眼球運動から抽出できるかを明らかにしていく予定です。




用語説明


注1. 意思決定:複数の選択肢の中から 1 つを選ぶこと。


注2. 眼球運動:選択したものに視線を向ける運動行為。


注3. 手の到達運動:選択したものに手を伸ばす運動行為。

Comments


Commenting has been turned off.
bottom of page