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健康を科学で紐解く シリーズ195 「低出力レーザー治療で痛みを伝達する神経活動を抑制することを 動物実験で実証」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


低出力レーザー治療で痛みを伝達する神経活動を抑制することを 動物実験で実証




発表のポイント


1.皮膚の上からレーザーを照射することで痛みを伝える神経細胞の活動を抑制することを、

 電気生理学的手法※1を用いた動物実験で検証しました。


2.レーザーは皮膚で約 90%減衰し約 10%が坐骨神経に届くこと、約 10%のレーザーでも

 痛みを伝える神経活動を抑制することを明らかにしました。


3.経皮的レーザー照射の作用メカニズムや現象の詳細が解明されることで、低出力レーザー

 のさらなる普及や適応疾患の拡大が期待できます。


図 実験の模式図とレーザー照射の神経活動の抑制イメージ




概要


 富山大学学術研究部薬学・和漢系 応用薬理学研究室の歌大介准教授、帝人ファーマ株式会社の石橋直也研究員らの研究グループは、皮膚の上から坐骨神経にレーザーを照射(経皮的にレーザーを照射)すると、痛みとして感じられる強い刺激(痛み刺激)による神経活動のみが抑えられることを動物実験で実証しました。

また、坐骨神経におけるレーザーの強さは皮膚上の約 10%に減少していたにもかかわらず、坐骨神経に直接レーザーを照射した場合と効果は同等であることを見出しました。




研究の背景


 低出力レーザー治療※2は、痛みの緩和、抗炎症効果、組織再生、傷の治癒など、さまざまな効果が報告されている治療法です。日本では炎症による疼痛の緩和に保険適用があり、リハビリテーション領域で使用されています。

しかし、低出力レーザー治療がどのように痛みを緩和するのか、そのメカニズムは解明されていません。また、レーザーは皮膚や筋肉によって散乱し吸収されるため、深部の組織になるほどレーザーは届きにくく、効果も弱くなる可能性があります。ターゲットとする組織にどの程度のレーザーが到達すれば効果があるのか、統一的な見解は存在しません。


そこで本研究では、経皮的なレーザー照射が神経伝達にどのような影響を与えるか、電気生理学的手法を用いて評価しました。次に、経皮的にレーザーを照射した際、坐骨神経にレーザーがどの程度届くのか、フォトダイオード※3センサを使って検証しました。




研究の内容・成果


 成熟ラットの脊髄後角※4 に記録電極を刺入し、皮膚に機械刺激※5 を加えることで脊髄後角の神経細胞の発火を記録しました。機械刺激を加えるために、決まった圧力を加えることのできる von Frey フィラメントを使用し、痛み刺激にあたる太いフィラメント、痛みと感じない弱い刺激(触刺激)にあたる細いフィラメントを使用しました。波長 808 nm の半導体レーザーを使用し、臨床の使用方法と同様に、経皮的にレーザーを照射しました。

次に、成熟ラットの坐骨神経にフォトダイオードセンサを埋め込み、経皮的にレーザーを照射することで、レーザーが坐骨神経に到達するのか検証しました。

坐骨神経への経皮的レーザー照射は、触刺激による神経活動には影響せず、痛み刺激による神経活動を選択的に抑えることが明らかになりました。これは、低出力レーザー治療が、触覚に影響を与えずに疼痛を治療できる可能性を示しています。さらに、フォトダイオードセンサによる計測で、レーザーは皮膚で約 90%が減少し、残り約 10%が坐骨神経に到達したことが示されました。興味深いことに、過去に報告した坐骨神経に直接レーザーを照射した時と、本研究の経皮的レーザー照射とで効果を比較したところ、神経活動の変化率は同等でした。坐骨神経におけるレーザーの強さが皮膚上の約 10%に減少したにも関わらず効果は同等であることから、低出力レーザー治療が比較的広いレーザーの強さで効果を発揮することを示唆しています。




今後の展開


 低出力レーザー治療が神経活動を抑制する現象の理解が深まることで、治療の適用範囲が広がり、より多くの人々に利用されることが期待されます。そのために、現在は疼痛モデル動物を使用した基礎検討を行っており、低出力レーザー治療がどのように痛みを取り除くのか、治療の仕組みを解明していく予定です。




用語解説


※1 電気生理学的手法:

神経細胞の電気信号を直接記録する手法です。感覚の知覚や運動などは、神経細胞の電気信号により制御されています。本研究では、神経細胞の近くで生じる微弱な電気的変化を記録しています。


※2 低出力レーザー治療:

疼痛部位とその周辺部位に温度上昇が小さい低出力のレーザーを照射し、疼痛の緩和を行う治療法です。筋肉、関節の慢性非感染性炎症性疾患における疼痛の緩和を目的に、保険適用されています。


※3 フォトダイオード:

光を電気信号に変換する半導体デバイスです。光が半導体材料に当たると電子が励起され、電流が流れるという性質を利用しています。


※4 脊髄後角:

末梢(皮膚、筋、骨、各種臓器、粘膜など)で受け取った情報(触覚、圧覚、痛覚、温度覚)が最初に入力する中枢領域です。


※5 機械刺激:

物理的な力による刺激です。本研究では、動物の逃避反応を評価するために使われるvon Frey フィラメントを使用し、動物の末梢皮膚にフィラメントを押し当てて、機械刺激を加えました。

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