未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、
「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。
根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定
(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。
このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。
人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。
以下に、最新の科学知見をご紹介します。
膵臓がん内に含まれる真菌マラセチア・グロボーサの量が
膵臓がんの予後と関係があることを世界で初めて発見
発表のポイント
1.近年の研究から、皮膚や腸内の常在真菌であるマラセチア・グロボーサは腸内から膵臓に
移行し、膵臓がんの発癌を促進する可能性が示唆されています。
2.本研究では、膵臓がんの手術組織検体を用いて、腫瘍内のマラセチア・グロボーサ量が、
膵臓がん患者さんの生命予後や術後再発リスクと関係していることを世界で初めて明らか
にしました。
3.本研究成果により、マラセチア・グロボーサによる膵臓がん発癌メカニズムの解明や、
マラセチア・グロボーサをターゲットにした新規治療薬の開発が期待されます。
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 消化管外科学分野の絹笠祐介教授、徳永正則准教授、奥野圭祐助教の研究グループは、米国シティオブホープ ナショナルメディカルセンター ベックマン研究所のAjay Goel(アジェイ・ゴエル)教授、米国トランスレーショナル・ゲノミクス研究所の Daniel Von Hoff(ダニエル・ファン・ホッフ)教授との共同研究で、膵臓がんの腫瘍内に含まれる真菌マラセチア・グロボーサの量が、膵臓がん患者の生命予後や術後再発と関係していることを世界で初めて明らかにしました。
研究の背景
おおよそ 220~390 万種の真菌(カビ)が人間の皮膚や体内に常在しており、人間の栄養や代謝、免疫、様々な身体器官の生理機能などに大きな影響を及ぼしていることが明らかになってきています。
近年、がん患者で真菌が多く検出されることなどから、真菌と発がんやがんの進行との関係が注目されています。最新の研究では、皮膚や腸内の常在真菌であるマラセチア・グロボーサ※1 が腸管内から膵臓に移行し、様々な経路を介して膵臓がんの発癌を促進する可能性が示唆されています。また、がん患者の真菌量は、がん患者の診断や予後を予測する分子バイオマーカー※2 になる可能性も示唆されており、膵臓がんを含む様々ながんで盛んに研究が行われています。
本研究では、実際に手術を受けられた膵臓がん患者の手術組織検体を用いて、腫瘍内のマラセチア・グロボーサ量を測定し、腫瘍内のマラセチア・グロボーサ量が膵臓がん患者さんの生命予後や術後再発と関係していることを明らかにしました。
本研究成果により、マラセチア・グロボーサによる膵臓がん発癌メカニズムの更なる解明や、マラセチア・グロボーサをターゲットにした、膵臓がんに対する新規治療薬の開発が期待されます。
研究成果の概要
本研究では、180人の膵臓がん患者の手術組織検体から DNA を抽出し、真菌マラセチア・グロボーサのリボソーム DNA※3が検出されるかを PCR 法を用いて検討しました。
この PCR 法を用いた検討では、180 例中 78例(43.3%)の手術検体からマラセチア・グロボーサのリボソーム DNA が検出され、残りの 102 例からは検出されませんでした(図 1)。
また、マラセチア・グロボーサ DNA が検出された膵臓がん患者 78 人(マラセチア・グロボーサ陽性群)と検出されなかった 102 例(マラセチア・グロボーサ陰性群)の術後 3 年生存率と再発率を比較したところ、マラセチア・グロボーサ陽性群が有意に生存率が悪く、再発率が高いことがわかりました(図 2)。
研究成果の意義
本研究では、膵臓がん患者の手術組織検体から抽出した DNA を用いて、腫瘍内のマラセチア・グロボーサ量を PCR 法で測定し、腫瘍内のマラセチア・グロボーサ量が膵臓がん患者さんの生命予後や術後再発リスクと関係していることを明らかにしました。
本研究成果により、マラセチア・グロボーサによる膵臓がん発癌メカニズムの更なる解明や、マラセチア・グロボーサをターゲットにした、膵臓がんに対する新しい治療薬の開発が期待されます。
用語解説
※1 マラセチア・グロボーサ
14種類あるマラセチア(癜風菌)という真菌(カビ)の1種。常在真菌で、通常は脂漏性皮膚炎や癜風、マラセチア毛包炎などの原因となる。近年の研究で、膵臓がんの発癌を促進する可能性が示唆されている。
※2分子バイオマーカー
組織や体液内に含まれる特定の分子や細胞の有無、もしくは存在量を指標とするもので、疾患の診断、状態の評価や予測、医薬品開発などに利用される。
※3 リボソーム DNA
細胞内でたんぱく質の合成を行っている小器官であるリボソームをコードしている DNA。全ての細菌が有している DNA であり、真菌を含む微生物の同定に利用されることが多い。
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