未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、
「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。
根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定
(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。
このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。
人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。
以下に、最新の科学知見をご紹介します。
子どもの先天性心疾患発症に関する母親のリスク因子が明らかに
妊娠初期のビタミンAサプリメントの摂取は発症の可能性を高める
~日本の約10万組の親子のエコチル調査より~
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)臨床研究センター データサイエンス部門の小林徹、朴慶純、岩元晋太郎、横浜市立大学エコチル調査神奈川ユニットセンターの河合駿、伊藤秀一らの研究グループは、日本小児循環器学会と協同で全国約 10 万人のエコチルデータを用いて母子ペアを妊娠中から 3 歳まで追跡調査しました。
その結果、子どもの先天性心疾患発症に母親の妊娠初期のビタミン A サプリメント摂取、バルプロ酸内服、降圧薬内服、先天性心疾患の既往、母親の年齢、妊娠中期のヘモグロビン血中濃度(貧血の指標)が関連することを明らかにしました。
これらの先天性心疾患発症と母親のリスク因子との関連性は日本人の大規模母子コホートでは初めて見いだされました。
特に妊娠初期の女性、また妊娠を考えている女性においても、ビタミン A を含むサプリメントの摂取は控えることが推奨されます。
【図 子どもの先天性心疾患発症に関連する母親のリスク因子】
発表のポイント
1.これまで日本では、妊娠期の女性の生活習慣と子どもの先天性心疾患発症の原因について
十分に検討されておらず、今回は日本人の大規模母子コホートで初めての研究結果となり
ます。
2.子どもが先天性心疾患を発症する調整オッズ比は、妊娠初期の母親のビタミン A サプリ
メント摂取で約 5.8、バルプロ酸内服で約4.9、降圧薬内服で 3.8、先天性心疾患の既往
歴で約 3.4、母親の年齢 40 歳以上で約1.6、妊娠中期のヘモグロビン血中濃度(貧血の
指標)で約 1.1 でした。
3.妊娠中の食事からの栄養摂取状況や社会経済的背景との関連は認められませんでした。
4.妊娠初期や妊娠を希望する女性はビタミン A サプリメントの摂取を控えることが勧めら
れます。
研究の背景と目的
子どもの先天性心疾患発症に母親の基礎疾患や妊娠中の薬剤摂取を含めた環境因子が関連する事が数十年前から提唱されていました。一方で、日本では妊娠初期から子どもの先天性心疾患診断までを前向きに追跡した大規模研究はほとんどなく、妊娠期の女性の生活習慣の変化によってどのような環境因子が子どもの先天性心疾患発症の原因となるかについては十分検討されていませんでした。
今回、大規模な前向きコホート研究であるエコチル調査のデータを利用し、現在の日本人において母親の背景や環境因子が子どもの先天性心疾患発症にどのように関与するかについて詳しく調査しました。
研究の内容と結果
2011 年 1 月から 2014 年 3 月にエコチル調査に参加した妊婦とその子ども、91,664ペアを対象にしました。母親の妊娠中から行っている自記式アンケートと医療者へのアンケートを利用し、3歳までの先天性心疾患診断と母体環境因子の関連について疫学的に分析を行いました。
先天性心疾患を持っていた子どもは1,264名(1.38%)で、そのうち心室中隔欠損症や心房中隔欠損症などの単純型先天性心疾患は1,039名(1.13%)、ファロー四徴症や単心室などの複雑性先天性心疾患は181名(0.18%)の頻度でした。
妊婦の食事による栄養摂取や、学歴・収入などの社会的背景が子どもの先天性心疾患発生リスクと関連を示さなかった一方、図に示す6つの因子が子どもの先天性心疾患発症リスクにそれぞれ関連することが明らかとなりました。特に妊娠初期にビタミンAサプリメントを摂取する妊婦は非摂取の妊婦と比較すると子どもに先天性心疾患が発症する調整オッズ比が約5.8と高値を示しました。
今後の展望・発表者のコメント
今回の大規模な調査によって、日本における子どもの先天性心疾患発生に関連する複数の母親のリスク因子が明らかになりました。特にビタミン A サプリメントは妊娠初期の女性に対して先天性心疾患を含めた先天奇形発症リスクを高める懸念から、その摂取は現在推奨されていません。
本研究においても過去の研究と同様の結果が得られており、改めて妊娠初期や妊娠を希望する女性はビタミン A を含むサプリメントの摂取を控えるよう、知識の普及が望まれます。また、バルプロ酸や降圧薬に関しては元となっている病気のコントロールも重要なため、主治医と十分に相談する事がすすめられます。
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