健康を科学で紐解く シリーズ19 「関節リウマチ治療薬メトトレキサート減量の可能性」
- nextmizai
- 2023年4月30日
- 読了時間: 5分
更新日:2023年6月25日
未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、
「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。
根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定
(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。
このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。
人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。
以下に、最新の科学知見をご紹介します。
関節リウマチ治療におけるキードラッグである
メトトレキサート減量の可能性が明らかに
-生物学的製剤を開始する際のメトトレキサート減量試験-
研究の背景
関節リウマチは免疫の異常により全身の関節に炎症を起こし、関節の腫れ・痛みのみならず、関節変形を来して機能障害をもたらす疾患です。メトトレキサートなど従来の抗リウマチ薬に加え、近年、炎症を起こす特定の分子を標的にした生物学的製剤(注 3)や JAK 阻害薬(注 4)が使用可能となり、多くの方で病勢のコントロール、関節変形進行の抑制が可能となりました。
関節リウマチと診断された場合、まずはメトトレキサートで治療を行い、6 ヶ月時点で治療目標を達成しない場合には生物学的製剤や JAK 阻害薬を使用することが世界中で標準的な治療として推奨されています。生物学的製剤を追加する場合、メトトレキサートを継続する事で治療効果が高まることが知られており、それまで使用していたメトトレキサートの同量継続が一般的に行われて来ました。一方、メトトレキサートの用量が多いほど、消化器症状・脱毛・肝障害・血球減少などの副作用が増えることが知られており、生物学的製剤追加時に使用するメトトレキサートを減量することができないか検討されてきたものの、標準的な治療を行った際にメトトレキサートがどの程度減量できるのかは明らかになっていませんでした。
研究の概要
慶應義塾大学医学部内科学教室(リウマチ・膠原病)の金子祐子教授、玉井博也特任助教らの研究グループは、エーザイ株式会社との共同研究において、関節リウマチ患者に対してTNF 阻害薬(注 1)であるアダリムマブを開始する際、併用するメトトレキサート(注 2)を半減可能であることを国際共同臨床試験で示しました。
関節リウマチの治療は、まずメトトレキサートで治療を開始し、効果不十分な場合に、関節リウマチの炎症に関与する TNF と呼ばれる物質を阻害する薬剤などを追加することが全世界で推奨されています。TNF 阻害薬はメトトレキサートを継続して併用すると有効性が高まることは知られていましたが、必要なメトトレキサートの用量に関しては十分明らかとなっておらず、一般的には同量の継続が行われていました。
本臨床試験では TNF 阻害薬の 1 つであるアダリムマブを追加する際にメトトレキサートを半減しても、有効性が劣らず、有害事象は少ない傾向にあることを示しました。
本研究により、TNF 阻害薬を開始する際の有害事象や医療費を減らし患者さんにより安全な治療を提供できることが期待されます。
研究の成果
MIRACLE 試験は慶應義塾大学医学部内科学教室(リウマチ・膠原病)の金子祐子教授、玉井博也特任助教らが中心となり国内 12 施設、韓国 6 施設、台湾 6 施設で行ったエーザイ株式会社との共同研究で、300 名の早期関節リウマチ患者が試験に参加しました。
試験ではまずメトトレキサート内服による治療を 24 週間行い、治療目標(「寛解」と呼ばれる病勢がコントロールされている状態)を達成しない場合には TNF 阻害薬の 1 つであるアダリムマブの皮下注射治療を追加します。この際、同時に使用するメトトレキサートを同量継続する群と 6~8 mg/週に減量する群の 2 群に 1:1 で割付け、さらに 24 週後に治療目標を達成する割合を比較しました。
治療目標を達成した割合はメトトレキサート同量継続群で 38%、減量群で 44%と減量群で効果は劣らず、関節破壊の程度や機能障害に関しても差を認めませんでした。一方、アダリムマブを追加した後の有害事象に関してはメトトレキサート同量継続群で 35%、減量群で20%と減量群で少ない傾向にありました。メトトレキサートの用量は同量継続群が 13.2 mg/週、減量群が 7.6 mg/週でした(下図)。

本臨床試験では、早期関節リウマチ患者に対してガイドラインに従い、まずメトトレキサートで治療を開始し、効果不十分であった場合に TNF 阻害薬であるアダリムマブを追加する際には、併用するメトトレキサートを半減しても、有効性は劣らず、有害事象は少ない傾向である事を世界で初めて示しました。
今後の展開
本研究結果から、アダリムマブをメトトレキサートに追加した際の有害事象を減らす事、薬剤費の削減、また、関節リウマチの寛解が一定期間維持された後の薬剤減量が早まる事が期待されます。
今後長期観察時の有効性と安全性の評価を行うとともに、減量が推奨される集団を明らかにする事で、より安全性の高い治療方法を提供できると考えています。
用語解説
(注 1) TNF 阻害薬:
生物学的製剤の一種。関節リウマチの炎症に関与する TNF-α の作用を抑える
薬剤。
(注 2)メトトレキサート:
世界中で最も広く使用されている関節リウマチの治療薬。口内炎、嘔気、脱毛、
肝障害、血球減少などの副作用が知られている。
(注 3)生物学的製剤:
バイオテクノロジー(遺伝子組換え技術や細胞培養技術)を用いて製造された薬剤
で、特定の分子を標的としている。高分子蛋白質であり、内服すると消化されてし
まうため、点滴あるいは皮下注射で投与される。バイオ製剤とも呼ばれる。
(注 4) JAK 阻害薬:
炎症性サイトカインによる刺激が細胞内に伝達される際に必要な JAK(Janus
kinase (ヤヌスキナーゼ))という酵素を阻害する内服薬。
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