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健康を科学で紐解く シリーズ219  「加齢や肥満に伴う腎臓病に対抗する機構」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


加齢や肥満に伴う腎臓病に対抗する機構を解明

~FGF21とオートファジーが協調的に働き腎臓病に対抗する~





図1: 加齢や肥満に伴うオートファジーの

   停滞時に腎臓尿細管細胞の恒常性を

   維持するために働く代償機構



















研究成果のポイント


1.新国民病「慢性腎臓病」(20歳以上の8人に1人が罹患)の発症や進行には加齢や肥満が

 密接に関わる。


2.加齢や肥満はオートファジー※1を停滞(ストレスに対するオートファジーの活性化異常)

 させ、慢性腎臓病を進展させることが知られている。


3.今回このオートファジーの停滞に対抗する新しい機構を解明した。


4.腎臓の尿細管細胞は、加齢や肥満時にオートファジーがうまく起こらないと、線維芽細胞

 増殖因子(FGF21※2)を産生していた。さらに、FGF21はオートファジーの停滞を改善

 し、ミトコンドリアの生合成を促進することが明らかになり、慢性腎臓病の進展に対抗

 する機構が明らかになった。


5.FGF21やオートファジーの停滞を標的とすることにより、慢性腎臓病に対する新しい

 治療法の開発が期待される。




概要


 大阪大学大学院医学系研究科の南聡 特任助教(常勤)(遺伝学)、酒井晋介 医員、山本毅士 特任助教(常勤)、猪阪善隆 教授(腎臓内科学)らの研究グループは、加齢や肥満に伴う腎臓病の進展に対抗する新しい機構を明らかにしました。


これまで本研究グループは、加齢や肥満に伴う腎臓病に対して腎臓尿細管細胞のオートファジーが保護的に働く一方で、加齢や肥満に伴う腎臓病が進行するとリソソームストレスのためにオートファジーがこれ以上活性化できない状態(オートファジーの停滞)となることを明らかにしていました。しかし、このようなオートファジーの停滞時に腎臓尿細管細胞の恒常性を維持するために働く代償機構は不明でした。


今回、本研究グループは、加齢や肥満時に腎臓尿細管細胞でのオートファジーが起こらないことで、抗老化・抗肥満因子としてよく知られているFGF21を腎臓尿細管細胞が産生することを明らかにしました。さらに、産生されたFGF21がオートファジーの停滞を改善すること、ミトコンドリアの生合成を促進することが明らかになり、加齢や肥満に伴う腎臓病の進展に対抗することを解明しました。このことから、FGF21やオートファジーの停滞を標的とすることにより、慢性腎臓病に対する新しい治療法の開発が期待されます。




研究の背景


 慢性腎臓病は新たな国民病ともいわれており、その発症や進行には加齢や肥満が密接に関わります。これまで腎臓尿細管細胞におけるオートファジーが加齢や肥満に伴う腎臓病に対抗することが知られていました。


また近年、本研究グループは加齢や肥満に伴い腎臓尿細管細胞はリソソームストレスのためにオートファジーがこれ以上活性化できない状態となる(オートファジーの停滞)ことを明らかにしました。しかしこのオートファジーの停滞に対抗しうる機構についてはこれまで不明でした。




研究の内容


 まず、オートファジーに必須の遺伝子であるAtg5を近位尿細管特異的に欠損させた近位尿細管特異的オートファジー不全マウスを作成し、加齢モデル(24ヵ月飼育)・肥満モデル(高脂肪食負荷2ヵ月間)を行い、腎臓でのFGF21の産生を検証したところ、加齢モデル・肥満モデルともにオートファジー不全マウスでFGF21が著しく増加していました。そこで近位尿細管特異的FGF21ノックアウトマウスを作成し、加齢・肥満モデルで検証したところ、FGF21ノックアウトマウスでは尿細管の空胞病変として観察される巨大リソソームが著しく増加しており(図2)、オートファジーの停滞も増悪していました。


図2: 加齢モデル(24ヵ月齢, 上段)、肥満モデル(高脂肪食2ヵ月, 下段)の野生型マウス、近位尿細管特異的FGF21ノックアウトマウスのPAS染色画像を示す。

加齢や肥満により形成される尿細管の空胞病変(巨大リソソームを示しておりオートファジーの停滞を示唆する)はFGF21ノックアウトにより増悪する。



 次に、オートファジー不全マウス・オートファジー不全かつFGF21ノックアウトマウスを作成し、加齢・肥満モデルで検証したところ、オートファジー不全かつFGF21ノックアウトマウスはオートファジー不全マウスと比べても腎臓病が進展していました。またこのマウスではミトコンドリア生合成低下、ミトコンドリア異常を認めていました(図3)。


図3: 加齢モデル(24ヵ月齢)の野生型マウス、オートファジー不全マウス、オートファジー不全かつFGF21ノックアウトマウスの染色画像を示す。

オートファジー不全かつFGF21ノックアウトマウスではオートファジー不全マウスに比較しても加齢腎進行の代表所見である腎線維化(シリウスレッド染色で赤色に染色される)が進行しており(上)、

またミトコンドリア活性を示すCOX染色の染色性が低下していた(下)。



 これらのことから近位尿細管においてオートファジー不全下で産生されるFGF21はオートファジーの停滞の改善、ミトコンドリア生合成促進を介して腎保護的に働くことが明らかとなりました。




本研究成果の意義


 慢性腎臓病は20歳以上の8人に1人が罹患しており、新たな国民病ともいわれています。加齢や肥満は慢性腎臓病の発症や進行に密接に関わりますが、本研究により加齢や肥満に伴う腎臓病に対して、FGF21やオートファジーの停滞を標的とする新しい治療法の確立が期待されます。




南 聡 特任助教のコメント


 これまでの臨床研究から加齢や肥満、腎機能低下時には血清FGF21値が上昇しており「FGF21抵抗性」の存在が示唆されています。すなわち肥満や加齢に伴う腎臓病患者さんでは「オートファジー停滞→FGF21増加→FGF21抵抗性→オートファジー停滞増悪」の悪循環になっていると考えています。


今後はFGF21抵抗性の病態を解明し、FGF21抵抗性を解除するアプローチをとることにより、この悪循環を断ち切り、慢性腎臓病に対する治療法の開発につなげたいと考えています。




用語説明


※1 オートファジー

細胞内のタンパクや細胞内小器官などの細胞質構成成分を分解・リサイクルすることにより、細胞内の恒常性を維持する機構。その過程においては分解基質がオートファゴソームとよばれる脂質二重膜構造体に隔離され、分解酵素に富むリソソームに融合することで分解が生じる。加齢や肥満時の腎臓尿細管細胞においてオートファジーの分解基質が持続的にリソソームに輸送されることにより、リソソームの過負荷と機能不全が生じ、オートファジーの停滞につながる。


※2 FGF21

Fibroblast Growth Factor 21。FGF21はホルモン様作用物質であり、細胞の増殖に関わる線維芽細胞増殖因子のひとつである。FGF21は肝臓をはじめとして全身の様々な臓器において産生され、膵臓・脂肪組織・脳(視床下部)などに働きかけ、抗肥満・抗糖尿病作用を発揮する。これらの作用から現在糖尿病や非アルコール性脂肪肝炎などの肥満関連疾患の新しい治療戦略として臨床応用が期待されている。またFGF21は抗老化にも働き、モデル動物の寿命延長や老化関連疾患の改善効果が報告されている。

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