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健康を科学で紐解く シリーズ224  「大脳と小脳の連携に関わる新たな神経回路をマウス実験により発見」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 



大脳と小脳の連携に関わる新たな神経回路をマウス実験により発見




研究成果のポイント


1.マウス顔面のヒゲ領域から小脳への触覚信号の伝達経路を解析した結果、顔面からの触覚

 信号は大脳皮質に送られた後、間脳-中脳領域(mesodiencephalic junction)を介して

 橋核(pontine nuclei)に送られ、最終的に小脳に伝達される経路があることを新たに見出

 しました。


2.間脳-中脳領域は触覚のみならず聴覚、視覚など複数種の感覚情報の処理に関わることが

 示唆されています。本研究は、複数種の感覚情報の統合および小脳の体性感覚情報処理に

 おける機能的意義の解明に貢献することが期待されます。




概要


 「触覚」は、皮膚の感覚受容器が触圧感覚を受容し、「大脳皮質 体性感覚野」に伝達することで発生します。体性感覚野に送られた情報はさらに脳の様々な領域に送られて情報の処理がなされますが、情報の伝達経路や、伝達された情報の機能的役割については未だ多くが不明のまま残されています。


 広島大学 大学院医系科学研究科 久保怜香助教と橋本浩一教授らの研究グループは、マウスの顔面からの触覚信号が、大脳皮質に送られた後、mesodiencephalicjunction と呼ばれる、間脳と中脳の境目の領域を介して小脳に伝達されていることを見出しました。

この結果は、マウスの顔面からの体性感覚信号が、大脳皮質に送られた後、これまで知られていたよりもより複雑な経路を経て小脳に伝達されていることを示唆しており、触覚の信号処理がもつ機能的な多様性の一端を明らかにする手がかりを与えるものとして注目されます。




背景


 大脳と小脳の間には機能的な結合があり、精緻な運動制御や高次脳機能に重要な働きをしていることが示唆されています(大脳–小脳連関)。以前の神経線維を染色する実験の積み重ねから、大脳–小脳連関における大脳からの出力は、cortico-pontine 経路という、大脳から橋(pons)という脳部位にある橋核(pontine nuclei)への直接投射によって担われていると考えられていました。橋核は大脳皮質全体から精緻な体部位局在を持った投射を受けており、かつ小脳への入力線維である苔状線維の主要な起始核であるため、大脳から小脳へのメインの情報伝達経路として働き得ます。しかし一方で、具体的な機能的な役割についてははっきりと判明していませんでした。


久保助教らは、大脳から小脳への信号伝達経路を明らかにするため、マウスヒゲ領域の体性感覚情報の伝達経路に着目しました。マウスヒゲ領域の体性感覚情報は、大脳皮質に送られた後、小脳に伝達されることが知られていますが、その詳細な伝達経路は明らかになっていませんでした。




研究成果の内容


 本研究では、大脳から小脳への伝達経路には直接的な cortico-pontine 経路のみではなく、間接的な経路があること、さらに顔面の触覚情報の伝達にはその間接的な経路が働いていることを明らかにしました。


ヒゲ領域の体性感覚信号を三叉神経核に中継する神経束(眼窩下神経)を電気刺激し、小脳プルキンエ細胞で発生する神経活動を single-unit recording 法(※1)により計測しました。

マウスの橋核に神経間の信号伝達を阻害する作用がある muscimol(※2)を投与すると、眼窩下神経からプルキンエ細胞への感覚信号伝達が著しく阻害されることを確認したうえで、同様の実験を間脳-中脳領域(mesodiencephalic junction)に対して行いました。その結果、橋核の場合と同様に、間脳-中脳領域への muscimol 注入によりプルキンエ細胞への感覚信号伝達が著しく阻害されました。


さらに、間脳-中脳領域の関与を明らかにするため、光照射により神経活動を抑制できる ArchT を、間脳-中脳領域に直接投射している大脳皮質神経細胞に発現させる実験を行いました。大脳皮質への光照射により、上記の感覚信号伝達が阻害されるか確認した所、プルキンエ細胞への信号伝達が抑制されることを見出しました。


これらの結果は、触覚情報は大脳皮質からまず間脳-中脳領域に伝達され、その後橋核を経て小脳に伝達されることを示唆します。



注釈)


※1 single-unit recording:生体内の 1 つ 1 つの神経細胞から、神経活動を計測することが

  出来る技術。


※2 muscimol:抑制神経伝達物質である GABA の類似物質。muscimol を投与すると、

  神経細胞上の GABAA 受容体が活性化し、投与領域の神経の活動が大幅に抑制され

  る。これにより、神経細胞による信号伝達を遮断することが出来る。




今後の展開


 本研究により、触覚の信号がこれまで考えられていたよりも複雑な経路を介して大脳から小脳に伝達されていることが明らかになりました。


間脳-中脳領域は触覚のみならず聴覚、視覚など様々な感覚信号に反応する細胞が存在することが知られています。間脳-中脳領域を介する信号伝達は、これら複数種の感覚がどのように統合され、情報処理に活用されているかを解明する手掛かりになることが期待されます。また近年注目されている、大脳-小脳連関の高次脳機能への関与の解明についても貢献が期待されます。


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