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健康を科学で紐解く シリーズ231  「歩く癖で生じる内側半月板が逸脱する力を個別に解明」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


半月板の動き方から変形性膝関節症者の歩行中に生じる力学病態を読み解く!

歩く癖で生じる内側半月板が逸脱する力を個別に解明

~膝関節症者のオーダーメイド治療、効率的な予防に向けて~




研究成果のポイント


1.内側半月板の逸脱(図1)は無自覚に増悪していき、膝関節の衝撃吸収機能を低下させる

 ことで変形性膝関節症の加速的進行や痛みに繋がりますが、詳細な増悪原因は不明でし

 た。


図1: 内側半月板逸脱の図を示す。

(a)力学負荷に対して関節内にとどまり衝撃吸収機能が作用している半月板。

(b)関節外へ半月板が逸脱し衝撃吸収機能が破綻している半月板。



2.変形性膝関節症患者の歩行中に生じる、半月板の動き方から3つのパターンに分類し、

 歩く癖で生じる力(図3)、さらには逸脱の引き金となる半月板後方付着部損傷との関連性

 を解明しました(図3)。


図3: 健常者の半月板の動き方と比較した、変形性膝関節症者のタイプ分類と力学負荷、

および半月板付着部損傷における発生率の関連性を示す。

赤矢印は膝関節に生じる力学的負荷を示す。

Type1,2は足底の地面接地(a)踏み込み(b)時に膝をガニ股に誘導する力、type3は歩行中を通して膝を曲げる力(c)と逸脱量の関連性を示している。さらに健常者の半月板の動き方と類似していないtype1, 3は、逸脱の引き金となる半月板の後方付着部損傷の発生率が高いことが示される(図3 a, c)。



3.半月板が逸脱する個別的な力学的病態の解明で、変形性膝関節症のオーダーメイド治療

 や、発症および進行の効果的な予防法の確立に繋がることが期待されます。




概要


 変形性膝関節症の進行と痛みに関与する内側半月板を逸脱させる個別力学的特徴を発見しました。変形性膝関節症者55名と健常高齢者10名を対象とし、三次元動作解析システムと超音波検査装置を用いて快適歩行中の関節負荷と内側半月板の動き方を同時に測定しました(図2)。


図2:歩行中に逸脱する半月板の超音波画像(a)、逸脱距離の連続値で構成し半月板の動き

   方を示す波形(b)。白両矢印は各超音波画像の逸脱距離、黒両矢印は逸脱の総量を示

   す。



 健常高齢者の半月板の動き方から、変形性膝関節症者は3つに分けられ、膝の横ブレやガニ股歩行によって、足底の地面接地や踏み込み時に発生する膝内側に生じる力(図3a, b)、そして膝曲げ歩行によって発生する膝前面に生じる力(図3c)が半月板を逸脱させていました。さらに健常者の半月板の動き方と類似していないと、逸脱の引き金になる内側半月板後方付着部損傷の発生がより高いことが確認されました(図3 a, c)。したがって、変形性膝関節症者の半月板の動き方を把握し、患者個別に応じた適切な膝への負荷を軽減させることが、関節症発症や進行を予防する効果的な治療に繋がります。




背景


 半月板は関節内に正しく位置することで、衝撃を吸収する働きがあります(図1a)。しかし、半月板が関節外方向へ逸脱していくと(図1b)、衝撃吸収する働きが低下し、変形性膝関節症の進行スピードが加速していきます。

そのため、人生100年時代において全て“年のせい”として片づけるのではなく、早期段階から原因を特定し、個別に適切な治療・予防に繋げることが健康寿命の延伸にとって重要です。


 変形性膝関節症者の半月板逸脱は、歩行中の関節負荷によって増悪することが確認されています。特に人の歩く癖から関節に生じる負荷はそれぞれ異なり、その複雑さから詳細な半月板逸脱を増悪させる原因は不明でした。しかし、オーダーメイドの予防・治療の確立には、この詳細な原因解明が強く望まれています。




研究成果の内容


 健常者の半月板の動き方と比較し、変形性膝関節症者で3パターンに分けることができました(図3)。また足底の地面接地や踏み込み時に発生する膝の内側に生じる力(図a, b)、膝を曲げる力(図c)が、変形性膝関節症者の半月板逸脱と関連し、歩行中に半月板の逸脱を増悪させていることを突き止めました(図3)。


さらに半月板の後方付着部損傷は逸脱の引き金になることが知られており、その発生率を調査すると、健常者の動きと異なる変形性膝関節症者で高いことが確認されました(図3a, c)。




今後の展開


 半月板の動き方から、早期段階の逸脱を予測し、将来の変形性膝関節症の発症を抑制させることが期待されます。


また歩行中の半月板逸脱を増悪させる力を解明したことで、その力を効率的に減少させる装具や歩き方など、歩く癖の修正を通して変形性膝関節症者の新規治療の確立が期待されます。特にこれらの治療方法は、変形性膝関節症者の半月板の動き方ごとにオーダーメイド化が可能となります。


 加えて、現在膝に痛みなどの症状がない方にとっても、半月板が逸脱しない適切な歩き方や歩行量など日常生活中に実践できる、具体的な予防方法を提案できる可能性があります。

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