未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、
「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。
根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定
(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。
このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。
人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。
以下に、最新の科学知見をご紹介します。
腸内で増えたカビが“遠く離れた肺の線維化”に与える影響を初めて解明~肺線維症の新たな治療法の開発に繋がることが期待~
研究成果のポイント
1.微生物叢*1 の変化はさまざまな病気に影響を与えますが、肺線維症と微生物叢との関係
は十分わかっていませんでした。
2.本研究では、消化管の“ありふれたカビ”であるカンジダ*2(Candida albicans)が腸内で
増殖すると肺線維症が悪化することをマウス実験で初めて明らかにしました。
3.この肺線維症の悪化には Th17*3・IL-17A が関与していることを解明しました。腸内で
カンジダが増殖すると、まず肺などの離れた臓器に Th17 への分化傾向を示すリンパ球
が増加し、さらに刺激が加わると Th17 へと分化を遂げサイトカインである IL-17A を
産生・分泌する、という 2 段階の制御機構を発見しました。
4.さらに IL-17A は血管内皮細胞に働き「内皮間葉転換*4 を誘導する作用があること」を
初めて明らかにしました。
5.本研究の成果は微生物叢を標的とした新たな肺線維症治療法の開発につながると期待され
ます。
概要
広島大学大学院 医系科学研究科分子内科学の山田 貴弘大学院生、中島 拓助教、服部 登教授らのグループは、ミシガン大学/大阪大学の鎌田 信彦教授と共に「腸内でCandida albicans を増殖させたマウスでは肺線維症が悪化すること」を発見し、そのメカニズムについて新たな知見を蓄積しました。
この研究成果は肺線維症を含む難治性疾患に対して、微生物叢を標的とした治療法を開発する上で大きく貢献すると期待されます。
背景
肺線維症は肺にコラーゲン沈着を特徴とする呼吸器の難病の一つです。臨床的には抗線維化薬の有効性が示されていますが、その効果は限定的であることから新たな治療法の開発が求められています。
近年、宿主の微生物叢の変化がさまざまな疾患に影響を与えることが報告されており、難治性疾患の病態や新たな治療の標的として期待されていますが、肺線維症と微生物叢との関係は十分理解されていません。我々は微生物叢の変化、特に腸内Candida albicans の増殖が肺線維症の病態に及ぼす影響について、ブレオマイシン*5 誘導肺線維症モデルマウスを用いて検討しました。
研究成果の内容
抗菌薬と Candida albicans を飲水ボトルに混ぜて腸内 Candida albicans を増殖させたマウス (Candida +) は、Candida albicans を投与しない対照群のマウス(Candida -) と比較して、ブレオマイシン投与によって誘導される肺線維症が悪化しました。Candida +群の肺では Th17 免疫反応が亢進しており、これらのマウスに IL-17A の中和抗体を投与すると線維化が減弱したことから、この肺線維症の悪化には Th17・IL-17A が寄与していると考えられました。この反応は 2 つの段階によって制御されており、まず Candida albicans が腸で増えると RORγt (Rorc)というTh17 の生存・増殖に重要な役割を持つマスターレギュレーターを発現した「Th17への分化傾向を示すリンパ球」が遠隔臓器でもみられるようになり、次にブレオマイシンの刺激が加わると、刺激部位で Th17 へと分化を遂げ、IL-17A を産生する機序が考えられました。さらに、IL-17A がこれまでに報告されている作用だけでなく、内皮間葉転換を誘導して線維化を悪化させることを初めて明らかにしました。
本研究の要旨
今後の展開
本研究は肺線維症においても腸内微生物叢、特にカビである真菌叢と病態との関連がみられることを明らかにした点に特徴があります。
今後は、マウス実験の結果がヒトにおいても応用可能かを探り、微生物叢を標的とした肺線維症の新たな治療法開発に結び付けられることが期待されます。
用語説明
*1 微生物叢:膨大な種類・量の微生物(細菌・真菌・ウイルスなど)の集合体。
その変化は免疫細胞やサイトカインの変化を介して、さまざまな影響を及ぼすことが知ら
れる。
*2 カンジダ:消化管や皮膚に存在する微生物で、真菌(カビ)の一種。
免疫力が正常な人で問題になることは少ない反面、免疫力が低下した人や抗菌薬を投与
された人で問題になることがある。
*3 Th17:ヘルパーT 細胞の一種。
IL-17A というサイトカインを分泌して多くの病気に関係している。
*4 内皮間葉転換:内皮細胞が間葉系細胞の特性を獲得するプロセス。
間葉系細胞には、線維芽細胞などの線維化の進展にかかわる細胞が含まれる。
*5 ブレオマイシン:抗がん剤の一種。
マウスの肺線維症モデルを作成する際に一般的に使用される。
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