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健康を科学で紐解く シリーズ244  「心臓と消化管の関連が明らかに~


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


大動脈弁狭窄症に伴う消化管出血がカテーテル治療で改善!

~心臓と消化管の関連が明らかに~




本研究成果のポイント


1.高齢化社会で増加している大動脈弁狭窄症では消化管出血を合併することがしばしばあり、ハイド症候群と呼ばれています。大動脈弁の狭窄箇所で血流が速くなり、止血因子(フォンウィルブランド因子)が過度に分解されることによる止血異常症と、消化管粘膜に発生する出血しやすい異常血管(消化管血管異形成)の出現が消化管出血の原因と考えられています。特に後者に関しては世界的にも研究が進んでおらず実態が不明でした。


2.大動脈弁狭窄症に伴う消化管出血の実態を明らかにするため、大動脈弁のカテーテル治療が予定されている貧血のある重症大動脈弁狭窄症の患者 50 名に内視鏡検査を行い、臨床経過とともに解析しました。


3.(1)多数の血管異形成が消化管に存在した(2)10%で出血を認めた(3)心臓を治療すると消化管の出血が改善しました。


4.循環器疾患の治療と消化管粘膜病変が密接に関連しているという驚くべき知見です。



 京都府立医科大学大学院医学研究科循環器内科学後期専攻医彌重匡輝、同准教授全完、消化器内科学助教井上健、東北大学加齢医学研究所基礎加齢研究分野教授堀内久徳、同大学院生道満剛之ら研究グループは、貧血のある重症大動脈弁狭窄症患者のうち 94%に見られる消化管出血性病変に対して大動脈弁のカテーテル治療を行うと、消化管出血性病変の数や大きさが改善することを明らかにしました。


 本研究は、大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療が重症大動脈弁狭窄症患者の消化管血管異形成を消退させることを初めて明らかにしました。循環器疾患の治療と消化管粘膜病変が密接に関連している驚くべき知見でした。


本研究成果をもとに、今後は大動脈弁狭窄症に伴う消化管血管異形成の形成・消退メカニズムが解明され、治療の改善に繋がることが期待されます。




研究分野の背景や問題点


 大動脈弁狭窄症の多くは、大動脈弁の加齢による弁の変性によって起こるため、高齢者が著しく増加している我が国では 75 歳以上の約 8 人に 1 人が罹患しているといわれています。大動脈弁狭窄症では、しばしば消化管出血を来たします。この合併した病態を最初の報告者の名前からハイド症候群と呼ばれています。大動脈弁狭窄症と消化管出血の関係について我が国の医学教科書においてあまり取り上げられていなかったため、我が国の医療現場でも行き届いているとは言えません。もし、知識としてなければ、だれが循環器疾患の大動脈弁狭窄症と消化管出血を結びつけることができるでしょう?

例えば、下血を来して緊急入院となった高齢者がいました。下血が落ちついたため、胃カメラ、大腸カメラの内視鏡検査で出血源を見つけようとしましたが、ガンや潰瘍がなく出血源を見つけることができませんでした。診察で心臓に雑音があり、心臓超音波検査で重症の大動脈弁狭窄症が見出されました。この場合、加えて消化管にガンなどが発見されたとしても重症の心臓病があるため、これ以上の検査や手術は危険性を伴う可能性があり、患者は退院することとなりました。その後、患者は何度か出血を繰り返し、体力が低下しました。私たちの今回の研究では、小腸に頻発した出血しやすい血管異形成という異常血管に対して大動脈弁狭窄症の治療を行うと消退していくことが明らかにしました。大動脈弁狭窄症にはしばしば消化管出血を伴うことが明らかにされている場合、大きく治療方針が変わります。当時、上記が明らかにされていれば、小腸カプセル内視鏡によって小腸にある血管異形成の止血を確認し、カテーテルあるいは手術で大動脈弁の治療を行うことができ、患者は回復し、活躍されたことでしょう。


大動脈弁狭窄症がしばしば消化管出血を来たす原因は、大動脈弁の狭窄部を血液が流れることで生じる非常に強い「ずり応力」にあります。非常に強い「ずり応力」は止血作用に必須である血液中の因子(フォンウィルブランド因子)を破壊することによって止血異常症である後天性フォンウィルブランド症候群を来たし、出血しやすくなり、同時に消化管粘膜に出血しやすい血管異形成という異常血管が形成されます(図 1 参照)。この十数年の研究で、大動脈弁狭窄症の治療を行うと、後天性フォンウィルブランド症候群は治癒することが明らかにされていましたが、血管異形成については、ほとんど実態が明らかにされていませんでした。





研究内容・成果の要点


 本研究では重症大動脈弁狭窄症時の血管異形成の実態を明らかにするため、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVR)治療を計画されている貧血のある重症大動脈弁狭窄症の患者 50名に、血液検査および消化管内視鏡検査を行い、臨床経過とともに解析しました。


その結果、以下の点が明らかになりました。


本研究で初めて明らかになった知見

  1. 多数の血管異形成が存在した:重症大動脈弁狭窄症の 94%の患者に一人あたり平均12 個の血管異形成が確認されました。小腸が最も多く、67%の患者に血管異形成を確認しました(図 2 参照)。大動脈弁狭窄症の患者が消化管出血を来した場合、胃と大腸だけではなく小腸も確認する必要があると考えられます。

  2. 10%で出血を認めた:重症大動脈弁狭窄症の患者の約半数に貧血があるといわれており、重症大動脈弁狭窄症の 10%の患者は、自覚症状がないにも関わらず、血管異形成からの出血が確認されています。血管異形成からの出血が貧血の主要要因である可能性があります。

  3. 心臓を治療すると消化管の出血が改善した:大動脈弁の治療によって、止血因子であるフォンウィルブランド因子の過度の分解がなくなり、貧血が改善しました。半年から 1年後には消化管血管異形成の数は減少し、大きさも縮小し、出血を起こしている血管異形成はありませんでした(図 3 参照)。循環器疾患の治療と消化管粘膜病変が密接に関連しているという驚くべき知見でした。





今後の展開と社会へのアピールポイント


 重症大動脈弁狭窄症では、しばしば消化管出血を合併します。この合併した病態は我が国の医学教科書でもこれまであまり取り上げられていませんでした。重症大動脈弁狭窄症は消化管出血を合併する場合があり、大動脈弁狭窄症の治療を行うことで心機能だけでなく消化管出血も改善することを、すべての医師のみならず一般の方にも理解して頂ければ幸いです。この約 10 年で、カテーテルによる大動脈弁治療も比較的安全に行えるようになっており、必要に応じて、積極的な治療も考慮していただければ幸いです。


また、本研究により心臓と消化管が関連していることが明らかになったように、臓器間の相関を考慮することが、今後の医療における検査、診断、治療において非常に重要になると考えられます。

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