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健康を科学で紐解く シリーズ26  「脳内で記憶を司る海馬の形成に働く新たな因子の発見」

更新日:2023年6月25日


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。



 


脳内で記憶を司る海馬の形成に働く新たな因子の発見

~ 空間記憶能力や不安を感じる能力に重要 ~



研究グループ


 群馬大学生体調節研究所(群馬県前橋市)細胞構造分野の佐藤健教授、前島郁子助教らの研究グループは、徳島大学、東京大学、京都大学、奥羽大学、量子科学技術研究開発機構および早稲田大学と共同研究を行った。



研究成果の概要


 細胞内輸送システムの中心的制御因子であるRabファミリータンパク質の1つ Rab35が、マウスの脳における海馬形成とその機能に必須であることを明らかにしました。


 脳においてだけ Rab35を欠損させたマウスでは、海馬の神経細胞の配置に乱れが生じており、空間記憶能力の低下や不安を感じた時の行動パターンに変化がみられました。細胞内輸送システムの破綻は神経疾患の発症要因であることから、本研究成果によって細胞内輸送システムによる高次脳機能制御の一端が解明されたことで、精神・神経疾患の病態解明に貢献することが期待されます。



研究の背景


 私たちの体を構成する細胞には、タンパク質などを適切な目的地へと運ぶ輸送システムが備わっています。このシステムがタンパク質を細胞内に正しく配置することで、細胞が正常に機能することができます。近年、この細胞内輸送システムの破綻がパーキンソン病やアルツハイマー病といった神経・精神疾患の発症要因となることが明らかになりつつあり、細胞内輸送システムの中心的制御因子であるRabタンパク質ファミリーの働きに注目が集まっています。Rabタンパク質の1つであるRab35は、これまでに、培養細胞を用いた研究から神経細胞の軸索伸長やシナプスからの神経伝達物質放出などに働くことが報告されていました。このことから、脳においてRab35が重要な役割を果たしていることが予想されていましたが、実際の生きた動物の脳における役割についてはほとんど明らかになっていませんでした。



研究の内容


 研究グループは、脳で特異的にRab35を欠損させたノックアウトマウスを作製し、脳構造を観察する組織学的解析とマウスの行動パターンから脳機能を評価する行動解析実験を行うことで、Rab35の欠損が脳に与える影響を解析しました。これまでの培養細胞の研究から、Rab35を欠損すると神経細胞の軸索伸長に影響が出ると思われましたが、予想に反して、このノックアウトマウスの脳内では軸索は正常に伸長していました。


一方で、神経細胞が層構造を形成して配置される大脳皮質と海馬のうち、海馬の層構造が顕著に乱れていました。また、行動解析実験によって脳機能を評価したところ、このマウスは警戒心が低く、高所から落ちてしまうなどといった低不安傾向を示すとともに、協調運動能力や空間記憶能力が低下していました。空間記憶と不安を伴う情動行動には海馬が関係していることから、Rab35はマウス海馬の層構造形成と機能に必須であることがわかりました。さらに、海馬の網羅的なタンパク質解析を行ったところ、複数の細胞内輸送システム関連因子や細胞接着因子の量が変動していることがわかりました。


これらの結果から、Rab35を失った神経細胞では、細胞内輸送システムに異常が生じていることがわかりました。


 本研究によって、これまで生体内での役割が明らかになっていなかったRab35が、海馬の発生と機能に必須の因子であることが明らかになりました。

大脳皮質の層構造形成に働くRabは複数見つかっていましたが、海馬の層構造に重要なRabの発見は今回が初めてになります。



研究のまとめ(ポイント)


1.細胞機能に重要な細胞内輸送システムの制御因子であるRab35の生体内での存在意義は

 これまでほとんど明らかになっていなかった。


2.培養細胞を使った研究ではRab35は神経細胞の軸索伸長に重要な因子であると考えられ

 ていた。


3.脳特異的Rab35ノックアウトマウスを作製し解析したところ、海馬の神経細胞の分布に

 異常が生じていた。


4.また、脳機能を評価したところ、このマウスは警戒心が低く、高所から落ちてしまうなど

 不安に伴う行動パターンの変化や空間記憶能力の低下が認められた。


5.以上から、実際の脳内においては、Rab35は軸索伸長より海馬の神経細胞の適切な配置

 に重要であることがわかった。


6.今回の研究から、60種類以上あるRabの中から海馬の形成に関わるRabを初めて同定す

 ることができた。



研究の意義


 近年、Rab35はパーキンソン病、アルツハイマー病などの神経疾患やガンとの関連が示唆されています。本研究は、これらの疾患の発症メカニズムの解明や細胞内輸送システムによる高次脳機能制御の理解に大きく貢献するものと期待されます。




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