top of page

健康を科学で紐解く シリーズ272  「喘息の病変部(気管支)で治療抵抗性を示す免疫細胞を同定」


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


喘息の病変部(気管支)で治療抵抗性を示す免疫細胞を同定




発表のポイント


 山梨大学大学院総合研究部医学域免疫学講座の Nguyen Quoc Vuong Tran 助教、中尾篤人教授のグループは、バイオインフォマティクスの手法を用いて、喘息の病変部(気管支)で吸入ステロイドなどによる治療に反応していない免疫細胞を同定しました。


本知見は、喘息が治癒しないメカニズムを示唆するとともに喘息に対する新しい治療標的を提唱します。




研究の背景


 喘息は、ダニやホコリ、タバコなどの大気汚染粒子、ウイルス感染、低気温などの環境刺激により、空気の通り道である気道(気管支)に炎症が起こり、気道が収縮して空気の流れが制限され、咳や呼吸困難を生じる病気です。最悪の場合、窒息により死亡する危険もあり日本でも年間約 1000 人程度が亡くなっています。


現在、喘息は世界中で約 3 億人、日本でも約 900 万人が罹患しており、その数は増え続けています。このように喘息は大きな医学上の問題ですが、同時に患者さんの生活の質が低下することや医療費の負担増加とも関連し、大きな社会的問題でもあります。ここ数十年来の喘息治療法の進歩、特に吸入ステロイド薬による気道炎症のコントロールにより、8 割程度の患者さんは良好な生活を過ごすことが可能になりました。しかしながら、吸入ステロイドはあくまで対症療法であり、治療を止めると再発し、本当の意味で喘息が治癒するわけではありません。よって喘息についての新しい理解や喘息を治癒させる新しい決定的な治療法が待望されています。

 



今回の発見


 山梨大学大学院総合研究部医学域免疫学講座の Nguyen Quoc Vuong Tran 助教、中尾篤人教授のグループは、バイオインフォマティクス[Bioinformatics](生物から得られたビッグデータを、コンピュータを駆使した情報学の手法を用いて解析することで、医学・生物学上の課題を解決する新しい学問分野)の手法を用いて、米国の医学研究拠点であるアメリカ国立衛生研究所(NIH)に登録された軽症、中等症、重症気道における膨大な遺伝子発現データベースを解析しました。

その結果、軽症、中等症、重症を問わず全ての喘息患者気道において「肥満細胞(マスト細胞)」という免疫細胞が健常人の気道に比べて顕著に増加しかつ活性化していることが明らかになりました。この遺伝子発現データベースに登録された軽症、中等症、重症喘息患者はほぼ全員が標準的な治療(吸入ステロイド治療)を受けており、今回得られた知見は、肥満細胞が標準的な治療法に全く反応せず、喘息患者気道で常にアクティブな状態になっていることを示唆しました。

 



今回の発見の意義


 現在の医学では、喘息は本当の意味で治癒させることができません。今回の発見は、喘息が治癒しない理由は「肥満細胞」の活性化にあり、気道における「肥満細胞」をコントロールすることが喘息を治癒させるためのカギであることを強く示唆する知見です。

これまで世界中の多くの喘息研究者や臨床医は、吸入ステロイド薬は万能で、特に軽症、中等症患者ではこの薬によって喘息気道における炎症はコントロールされていると考えていました。したがって、気道炎症が制御できない重症喘息患者だけでなく、軽症、中等症喘息患者でも一部の免疫細胞(「肥満細胞」)が増加し活性化しているという事実は驚きを持って受け取られました。今後、「肥満細胞」を標的とした治療法の開発により喘息を本当の意味で治癒させることが期待されます。


参考図

左のパネル:

用いた公的データベースとバイオインファマティクス手法


右のパネル:

(上図)喘息患者(Asthma)気道(epithelium)では正常人(healthy epithelium)の気道に比べて肥満細胞(MC)が増加している

(下図)肥満細胞(MC)の増加の割合が高い喘息患者では低い喘息患者に比べてより肥満細胞の活性化(FceRI signaling)が観察され、気道の炎症も激しい(Th2-high endotype)。

Comments


Commenting has been turned off.
bottom of page