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健康を科学で紐解く シリーズ29  「脊椎動物の免疫システムにおける進化のメカニズムが明らかに」

更新日:2023年6月25日


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


脊椎動物の免疫システムにおける進化のメカニズムが明らかに




研究の概要


 広島大学原爆放射線医科学研究所疾患モデル解析研究分野の神沼修教授、MaribetGamboa 助教(Universidad Catόlica de la Santísima Concepciόn)、北村紀子研究員(東京都医学総合研究所:TMiMS)、野田悟子教授(茨城大学)らからなる研究グループは、免疫応答※1に重要な役割を担う転写因子※2の脊椎動物における進化系譜を明らかにしました。


 新型コロナウイルス感染症パンデミックが続く中、人類が新興感染症等の脅威と今後どのように向き合ってゆくか、進化生物学なヒントが見えてきました。



研究の背景


 NFAT は、サイトカイン※3 等の遺伝子発現調節を介して免疫機能を司る転写因子です。ほ乳動物では 5 種類の遺伝子ファミリー※4を形成し、それぞれの NFAT における構造、機能または発現臓器が異なることによって、免疫系だけでなく、多様な生体機能や発生過程においても重要な役割を果たしています。しかし、そのような多様性を NFAT が獲得した要因やプロセスの詳細は、これまで明らかにされていませんでした。



研究成果の内容


 本研究では、脊椎動物の進化に伴う多様性獲得プロセスの詳細な解析を通じ、免疫システムの進化と密接に関連した NFAT の進化系譜を初めて明らかにしました。NFAT は約 6 億 5 千万年前に起きた左右相称動物の分岐を起源としていました。NFAT5 とカルシウム依存性制御領域を獲得した他の NFAT が、5 億 5 千万年前頃からの脊椎動物の発生と並行して分岐し、最終的に 5 種類まで分岐して各々が独自進化を遂げたことがわかりました(図1)。いずれの NFAT も、多くの種における進化の中で継続的に進化してきたことから、自然免疫応答において重要な役割を果たしてきたことが推察されました。


一方、新生代に起きた脊椎動物の劇的進化と、各 NFATにおいて頻繁にみられるようになった遺伝子重複や染色体再構成の間に高い相関がみられました。この遺伝子重複や染色体再構成が、近傍遺伝子を伴いながら連動して起こり、その変化後の構造が固定される傾向があることがわかりました。このことからNFAT は、脊椎動物における獲得免疫系の進化とも密接に関わりながら、独自に進化してきたことが明らかになりました。


図1 NFAT ファミリーの進化系統樹



本研究成果のポイント


1.免疫応答制御に重要な役割を担う様々な分子の遺伝子発現を制御するnuclearfactor of

 activated T cells(NFAT)は、5種類の遺伝子ファミリーで構成されるが、何故、どのよ

 うにそのような多様性を獲得したのか?


2.NFAT が多様性を獲得した進化プロセスが、脊椎動物における免疫システムの進化と密

 接に関連していることを明らかにした。

 

3.さらなる進化予測や機能解析によって、今後脅威となりうる新たな新興感染症等の対策構 

 築に貢献できる可能性がある。



今後の展開


 本研究の成果によって、わたしたち人類が持っている高度な生体防御システムにおける進化の一端が明らかになりました。新型コロナウイルス感染症や、これから脅威となりうる新たな新興感染症等との戦いに人類が勝利してゆくためには、これまでに獲得してきた免疫システムの進化プロセスから学ぶことが重要です。


 本研究の成果を元に、NFAT における今後の進化予測を行うことに加え、その多様性や個々の機能的役割に着目した詳細な解析を進めることによって、人類の未来へと繋がる新たな生存戦略構築に結びついてゆくことが期待されます。




用語解説


※1 免疫応答:潜在的な病原体等の非自己の侵入に対して防御を行う生体反応。


※2 転写因子:遺伝子の転写やその調節に関わるタンパク質群。


※3 サイトカイン:主に免疫系細胞から分泌され、細胞間相互作用に関与するタンパク質

  群。


※4 遺伝子ファミリー:同一の祖先遺伝子に由来するため、配列(および機能)が互いに類似

  している遺伝子群。

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