top of page

健康を科学で紐解く シリーズ48  「心房細動を伴う脳梗塞発症早期からの直接作用型経口抗凝固薬の有効性と安全性」

更新日:2023年6月25日


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


心房細動を伴う脳梗塞発症早期からの直接作用型経口抗凝固薬の有効性と安全性

ー 国際共同ランダム化比較試験 ー



 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の古賀政利脳血管内科部長、井上学脳卒中集中治療科特任部長、吉村壮平脳血管内科医長、吉本武史脳神経内科医師、田中寛大脳血管内科医師らが日本代表として参加した国際研究チームが、欧州、アジア、中東から 103 施設が参加した国際共同ランダム化比較試験「Early vs Late Anticoagulation in Stroke Patients with Atrial Fibrillation(心房細動を伴う脳梗塞発症早期と後期の抗凝固療法比較試験)」で、非弁膜症性心房細動を伴う脳梗塞に対する発症早期からの直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)投与が、ガイドラインに基づく標準的な時期からの投与と比べた場合に有効かつ安全(脳梗塞再発や出血性事象などが少ない可能性があること)であることを解明しました。


 これは国循が長年取り組んできた課題であり、2018年欧州脳卒中会議時のGAINS(The Global Alliance of Independent Networks focused on Stroke trials)会議において、ベルン大学がスポンサーになって2017年から開始していた本試験の症例登録が進まず、対応を話し合いました。そこで国循は日本国内からの参加を主導し、最終的に国循から101例(登録症例数103施設中2位)、他の国内5施設から90例を登録し本試験の完遂に大きく貢献しました。スポンサーからICH-GCP(a)に準拠した運営(品質マネジメント、モニタリング、データ管理など治験に準じた対応)が求められ、これまで国循で脳卒中臨床試験基盤整備事業NeCST(b)の中で行ってきたATACH2やTHAWSの研究経験を活かすことができました。



研究の背景


 脳梗塞は死因の第4位、要介護疾患の第2位を占める重要な国民病で、脳梗塞の約3割を占める心原性脳塞栓症は概して重症で、重い後遺症を残すことが少なくありません。非弁膜症性心房細動は心原性脳塞栓症の主要な原因です。


2010年からワルファリンと比べて頭蓋内出血発症が半減し頻回な血液検査を必要としないDOACが臨床で使用できるようになり、より積極的な心房細動の検出と抗凝固薬による予防が普及しつつあります。


しかし、心原性脳塞栓症発症後早期には脳梗塞再発のリスクとともに、出血性梗塞などの出血性合併症のリスクが高いとされており、脳梗塞発早期に抗凝固療法を開始してよいかわかっていませんでした。


 2015年に更新された欧州不整脈学会ガイドラインでは専門家の意見に基づいて、一過性脳虚血発作(TIA)では発症後1日、軽症脳梗塞では3日、中等症脳梗塞では6日、重症脳梗塞では12日(1-3-6-12 day rule)から抗凝固薬の開始を推奨しています。また、我々の最近の観察研究では、各々1日、2日、3日、4日(1-2-3-4 day rule)でも安全かつ有効にDOACを使用出来る可能性があることを報告しています(Kimura S, et al. Stroke 2022;53:1540-1549.)。



研究の方法


 試験の目的は、心房細動を伴う脳梗塞を対象に、ガイドラインに基づく標準的DOACの開始(1-3-6-12 day rule)と比較して、早期の開始の安全性と有効性を推定することです(優越性または非劣性の検討ではありません)。研究者主導、国際共同、ランダム化2群間比較、エンドポイント盲検評価試験(c)として行いました。試験対象は心房細動を伴う急性期脳梗塞患者で、DOAC早期開始群と標準的開始群に無作為に割付て試験登録30日以内の脳梗塞再発、症候性頭蓋内出血、頭蓋外出血、全身塞栓症または血管死からなる複合エンドポイントを主要評価項目としました。脳梗塞巣の大きさによりDOAC投与開始時期を分けました(早期開始群:軽症脳梗塞48時間以内、中等症脳梗塞48時間以内、重症脳梗塞6-7日;標準的開始群:各々3-4日、6-7日、12-14日)(図1)。試験登録30日以内の脳梗塞再発や症候性頭蓋内出血などを副次評価項目としました。


図1.脳梗塞サイズ別の早期開始群と標準的開始群のDOAC開始時期




研究の結果


 目標2000例に対して2032例を登録し、2013例(軽症脳梗塞37%、中等症脳梗塞39%、重症脳梗塞23%)が主要解析の解析対象となりました。1006例が早期開始群に、1007例が標準的開始群に割り付けられました。主要評価項目は、早期開始群29人(2.9%)、標準的開始群41人(4.1%)に発生しました(差-1.18%ポイント、95%信頼区間[CI], -2.84~0.47 )(図2)。登録30日以内の脳梗塞再発は、早期開始群で14例(1.4%)、標準的開始群で25例(2.5%)でした[オッズ比(OR)、0.57;95%CI、0.29~1.07]。登録30日以内の症候性頭蓋内出血は両群とも2例(0.2%)に発生しました(OR, 1.02; 95%CI, 0.16 136 to 6.59)(図2)。


図2.主要および副次評価項目



臨床現場に届けられるメッセージ


 これまでのガイドラインの推奨は専門家の意見や観察研究に基づくものであり、脳卒中治療ガイドライン2021では「非弁膜症性心房細動を伴う急性期脳梗塞患者に、出血性梗塞のリスクを考慮した適切な時期にDOAC を投与することを考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル低)」と記載されており、早期のDOAC開始は推奨されていません。


 本試験の結果、早期開始により脳梗塞再発と症候性頭蓋内出血を含めた複合エンドポイントが約1%減少する可能性が示されました。よって、非弁膜症性心房細動を伴う脳梗塞では発症早期からのDOACによる脳梗塞再発予防を検討することが妥当と考えられます。


 登録遅延と資金不足で早期終了となったTIMING(d)試験では888例が登録され脳梗塞の大きさによらず後期DOAC開始(発症5-10日)に対する早期DOAC開始(発症4日以内)の非劣性が示されています(Oldgren J, et al. Circulation 2022;146:1056-1066.)。


 TIMINGや現在進行中のOPTIMAS(e)(NCT03759938)との統合解析などにより、脳梗塞発症早期からのDOACによる脳梗塞再発予防が確立することが期待されます。




注釈


a. ICH-GCP


医薬品規制調和国際会議で定められた「医薬品の臨床試験の実施基準」です。


b. 脳卒中臨床試験基盤整備事業NeCST


脳卒中医学、とくに急性期治療を行う国内多施設の研究ネットワークです。


c. エンドポイント盲検評価試験


無作為に割り付けられた治療内容を知らない評価者がエンドポイントを評価する試験です。


d. TIMING


スウェーデンで行われた同種試験です。

心房細動を有する脳梗塞患者において、DOACを発症から4日以内に投与開始する群と、5-10日後に開始する群を比較して、登録90日後の脳梗塞再発/症候性頭蓋内出血/全死亡の複合イベントを評価しています。


e. OPTIMAS


英国を中心に欧州で行われている同種試験です。

心房細動を有する脳梗塞患者において、DOACを発症から4日以内に投与開始する群と、7-14日後に開始する群を比較して、登録90日後の脳梗塞再発/症候性頭蓋内出血/全身塞栓症の複合イベントを評価しています。

Comentários


Os comentários foram desativados.
bottom of page