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健康を科学で紐解く シリーズ49  「特発性肺線維症と栄養障害 〜『栄養評価と痩せないこと』の重要性〜」

更新日:2023年6月25日


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


特発性肺線維症と栄養障害

〜「栄養評価と痩せないこと」の重要性 〜



研究の概要


 浜松医科大学内科学第二講座の持塚康孝医師,鈴木勇三助教,須田隆文教授らの研究チームは,特発性肺線維症患者さん(IPF)のうち約40%の患者さんで栄養障害が見られること,栄養障害の存在が,抗線維化薬中止のリスクとなること,予後とも関連することを明らかにしました。



研究の背景


 間質性肺炎は肺胞の壁に炎症や損傷が起こり,肺胞壁が厚く硬くなるため(線維化),酸素を取り込みにくくなる疾患です。


特発性肺線維症(IPF)は,原因不明の間質性肺炎のなかで最も多い疾患です。痩せているIPF患者さんは抗線維化薬による胃腸障害がおこりやすく,抗線維化薬によって更に痩せてしまうことが懸念されます。


そこで,IPF患者さんの栄養障害の頻度や臨床的な意義を,GNRI: Geriatric Nutritional Risk Indexという栄養指標を用いて検討しました。



研究手法・成果


 IPFと診断された患者さんの抗線維化薬開始時のデータを用いて,栄養状態の評価を行いました。栄養評価は体重と血清アルブミン値からなる栄養指標(GNRI: Geriatric Nutritional Risk Index)を用いて行いました。


IPF患者さんの約40%に栄養障害が認められました(301人中113人, 37.5%)。栄養不良があると,副作用による抗線維化薬の中止率が高く,また予後とも関連することが明らかになりました。



研究の成果(ポイント)


1.「特発性肺線維症(IPF)」は原因不明の肺線維症のなかで最も多い病気です。

 抗線維化薬はIPF患者さんの肺活量の減少を抑制する効果を持ちますが,副作用として食思

 不振や下痢などの消化器症状を来すことがあります。


2.体重と血清アルブミン値からなる栄養指標(GNRI)を用いて栄養評価を行ったところ,

 約40%の患者さんで栄養障害が認められました。


3.栄養障害のあるIPF患者さんでは,特に消化器症状によって抗線維化薬を中止するリスクが

 高くなること,栄養不良が予後と関連することを明らかにしました。


4.適切に栄養評価を行い栄養障害の改善を目指すことが,抗線維化薬の継続や予後の改善に 

 つながる可能性が示されました。


<参考図>





今後の展開


 本研究の結果から,抗線維化薬の治療を行うIPF患者さんでは,栄養評価が重要なことが示されました。すなわち「痩せない」ことが,抗線維化薬の副作用軽減や継続率の改善につながり得ること,加えて疾患進行の抑制にも関連する可能性が示されました。


「痩せない」ために,適切な栄養評価と栄養不良の改善を目指すことが非常に重要なことと考えられました。


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