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健康を科学で紐解く シリーズ53  「サルコペニア予防に寄与する成分を独自の評価系で発見」

更新日:2023年6月25日


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


L-アンセリンはヒト由来培養筋組織の収縮力を向上させる

~サルコペニア予防に寄与する成分を独自の評価系で発見~



研究の概要


 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の清水 一憲准教授、永井 研迅 博士後期課程学生(兼:サントリーウエルネス株式会社研究員)、本多 裕之 教授らの研究グループは、サントリーウエルネス株式会社との共同研究で、L-アンセリンが、サルコペニア予防に寄与できる可能性を新たに発見しました。


 超高齢社会である日本では、サルコペニアや廃用性筋萎縮に伴う筋力低下が問題になっています。こうした背景から筋力低下を予防する食品成分が求められています。我々は、回遊魚や鳥類に多く含まれており、様々な食品から摂取されている成分かつ、多様な生理活性が報告されているL-アンセリンに着目しました。


本研究では、L-アンセリンがヒト由来骨格筋細胞の筋分化を促進し、筋収縮力を増大させることを、2次元培養および独自デバイスを用いた3次元培養で明らかにしました。


本研究は、食経験豊富なL-アンセリンが、ヒト由来骨格筋細胞の分化注4)および収縮力を増強することを示した初めての研究成果であり、L-アンセリンがサルコペニア予防に寄与することが期待されます。



研究背景と内容


 超高齢社会に伴い、健康寿命延伸や生活の質(QOL)の向上が課題となっています。健康寿命やQOL低下の要因として、認知症と並び運動器の老化が挙げられます。加齢とともに筋力や筋量が低下し、その結果として持久力や歩行速度の低下など、運動機能障害により要介護や要支援のリスクが高まると考えられています。こうした背景から、筋力低下を予防、あるいは筋力を増強させる食品成分が求められています。


 L-アンセリンは回遊魚や鳥類に多く含まれるイミダゾールジペプチド注5)で、様々な食品から摂取されてきた成分です。L-アンセリンは、尿酸値低減効果や血圧調節効果など多様な健康機能が知られていますが、骨格筋細胞の分化および筋収縮力への効果は知られていませんでした。


 本研究では、ヒト由来骨格筋細胞を用いてL-アンセリンが筋分化および筋収縮力に与える影響を評価しました。はじめに 2 次元培養におけるヒト由来骨格筋細胞を用いて、L-アンセリンが筋分化を増加させるか検討したところ、筋分化マーカーの遺伝子発現が増加することが分かりました。さらに、筋短径注6)が太くなっていることも分かりました。次に、独自のマイクロデバイスを用いた収縮力評価系で、ヒト由来骨格筋細胞から培養ヒト筋組織を作製し、3 次元培養においてL-アンセリンが筋収縮力を増加させるか検討しました。その結果、L-アンセリンは筋収縮力を増加させることが明らかになりました(図 2A と B)。さらに、L-アンセリンは筋収縮に必要なサルコメア構造注7)を増加させることが明らかとなりました(図2C)。また、作用メカニズムを検討したところ、ヒスタミンH1受容体注8)が関与している可能性が示されました。



図2. 3次元培養におけるL-アンセリンの効果


A. 独自のマイクロデバイス上で構築した培養ヒト筋組織

B.収縮力への影響

C. サルコメア構造をもつ筋管細胞割合への影響(左:添加なし、右:L-アンセリン添加)



研究成果の意義

 本研究では、食経験豊富なL-アンセリンがヒト由来骨格筋細胞における筋分化を促進し、筋収縮力を増大させることを世界で初めて見出し、L-アンセリンがサルコペニア予防に寄与する成分である可能性を示すことが出来ました。


また、独自のマイクロデバイスを用いた収縮力評価系は、サルコペニアを予防する食品成分の評価に活用できることを確認することが出来ました。




用語説明


注1) L-アンセリン:


  回遊魚や鶏肉に含まれるイミダゾールジペプチドの1つ。


注2) サルコペニア:


  加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のこと。


注3) 独自のマイクロデバイス:


  シリコーンの一種であるPDMS(ポリジメチルシロキサン)で作成した筋収縮力が

  測定可能な独自のデバイス。


注4) 分化:


  細胞が特定の目的を果たすために形態や機能を変化させる過程。


注5) イミダゾールジペプチド:


  構造中にイミダゾール基を持つジペプチドの総称である。

  アンセリンの他に、カルノシンやバレニンなどが分類される。


注6) 筋短径:


  筋管細胞における短径の長さ。


注7) サルコメア構造:


  筋肉が収縮するときに必要な構造で、アクチンフィラメント、ミオシンフィラメント

  およびZ帯から成る。


注8) ヒスタミンH1受容体:


  ヒスタミンの受容体の 1 つであり、G タンパク質共役型受容体である。

  全身に分布しており、骨格筋にも発現している。

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