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健康を科学で紐解く シリーズ55  「希少心臓難病・中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)の 予後について

更新日:2023年6月25日


未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、

「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。

根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定

(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。

このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。


人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。


以下に、最新の科学知見をご紹介します。


 


希少心臓難病・中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)の 予後に関する調査報告



研究の概要


 大阪大学大学院医学系研究科中性脂肪学共同研究講座の平野賢一特任教授(常勤)、同講座の原康洋特任研究員(常勤)、同大学医学部附属病院未来医療開発部データセンターの山田知美特任教授(常勤)及び平野賢一特任教授(常勤)が代表研究者を務める日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業・厚生労働省難治性疾患政策研究事業の中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)研究班は、TGCVの予後に関してレジストリ研究等をもとに分析して公開しました。


TGCVは、原因不明、治療法未確立、長期の療養を要する心臓難病です。


 今回の調査の結果、その生存率は、代表的循環器指定難病である拡張型心筋症のそれと同等であることが判明しました。本症の指定難病化と治療薬の早期承認が強く望まれます。



研究の背景


 TGCVは、2008年、我が国の心臓移植待機症例から見いだされた新規心臓難病です。

罹患臓器・細胞の主たるエネルギー源である長鎖脂肪酸 (Long chain fatty acids, LCFA) の細胞内代謝異常の結果、蓄積するTGによる脂肪毒性とLCFAが供給されないためのエネルギー不全を生じると考えられています(図1)。2009年から厚生労働省、日本医療研究開発機構(AMED)等の難治性疾患関連事業として疾患概念確立、診断基準策定、特異的治療法の開発が行われてきました。


図1. 中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)の発症メカニズム



研究の内容


 TGCV研究班は、オールジャパンの研究組織として情報収集、レジストリ構築等を行い、現時点での患者数、予後について検討しました。2022年12月現在、TGCVの累積診断数は640例、内訳は原発性TGCVが11例、特発性TGCVが629例でした。前者では6例が、後者では87例が死亡していました。特発性TGCV患者の3年生存率、5年生存率はそれぞれ80.1%、71.8%でした(表1)。


表1. 特発性TGCV 183例の合併症、生存率



研究の成果(ポイント)


1.中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)は、2008年にわが国の心臓移植待機症例から見いださ 

 れた原因不明、治療法未確立、長期の療養を要する希少心臓難病である。


2.日本医療研究開発機構 難治性疾患実用化研究事業・厚生労働省難治性疾患政策研究事業

 TGCV研究班は、TGCVレジストリを立ち上げる等、本症の患者数、予後について検討

 した。


3.2022年12月現在、TGCVの累積診断数は640例。内訳は原発性TGCVが11例、特発性

 TGCVが629例であった。前者では6例が後者では87例が死亡していた。


4.特発性TGCVの3年生存率、5年生存率はそれぞれ80.1%、71.8%であった。


5.TGCVの予後は、代表的指定難病である拡張型心筋症のそれと同等であった。

 本症の早期指定難病化と治療法開発の加速が重要である。



本研究成果の意義


 TGCVの予後は、代表的指定難病である拡張型心筋症のそれと同等でした。


 本症の早期の指定難病化、治療法開発加速のために産・患・官・学のより一層の連携、医学研究・臨床試験における患者・市民参画(Patient-public involvement)の取り組みの促進が必要です。



研究者からのコメント


 今回明らかになったTGCVの予後は、代表的循環器指定難病である拡張型心筋症のそれと同等であり、可能な限り早期の指定難病化、治療薬の開発が必要と考えています。


平野賢一 医学系研究科 特任教授(常勤)




用語解説


中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV):


Triglyceride deposit cardiomyovasculopathy、平野賢一特任教授(常勤)らが我が国の心臓移植待機症例から見出した新規難病 (N Engl J Med. 2008)。細胞内TG分解酵素であるAdipose triglyceride lipase 遺伝子のホモ型変異を持つ原発性とATGLには変異を認めない特発性に分類され、血清TG値や肥満度とは無関係に、冠動脈や心臓にTGが蓄積する。これまで想定されていなかったTGの生体における役割を示すモデル疾患でもある。2009年から厚生労働省や日本医療研究開発機構の難病事業として診断法、治療法開発が進められている。大阪大学でアカデミア開発された治療薬CNT-01は、厚生労働省から先駆け医薬品指定を受け、現在、国内製薬企業が検証的治験を実施している。


レジストリ研究:


特定の疾患を持つ患者の情報を登録、集計、解析して、その疾患に罹患している患者数、診療内容、予後等明らかにすることにより、診療内容の改善、治療法の開発等に繋げる研究手法。

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