未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、
「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。
根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定
(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。
このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。
人の「健康」の仕
組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。
以下に、最新の科学知見をご紹介します。
食中毒から子どもを守るために
食中毒原因菌 Providencia属細菌の特性を明らかに
-感染経路の特定や予防法の確立へ大きな一歩-
研究の概要
近年、胃腸炎などの患者から検出されるようになった Providencia 属細菌は、O-157 やサルモネラ菌などと同様に食中毒の原因菌として注目されています。免疫力の低い子どもにとって、食中毒は下痢や脱水など重篤な症状を引き起こす可能性があるため、感染源や病原因子の解明と予防法の確立は、日本のみならず世界中の喫緊の課題となっています。
大阪公立大学大学院 獣医学研究科の山﨑伸二教授、Sharda Prasad Awasthi 特任講師、Jayedul Hassan 大学院生らの研究グループは、水島中央病院、Independent University Bangladesh との共同研究により、Providencia 属細菌の一種である Providencia rustigianii や Providenciaalcalifaciens が持つ病原遺伝子が、細菌細胞内でどのように伝播するのかを明らかにしました。
本成果は、Providencia 属細菌の感染経路の特定や食中毒の予防法確立に向けて新たな知見を与えると考えられます。
山﨑伸二教授
本研究は、バングラデシュからの留学生の Jayedul Hassan さんとインド人特任講師の Sharda Prasad Awasthi さんが中心となって行った研究です。
Providencia 属菌は新興人獣共通感染症として今後さらに問題となる可能性のある細菌です。現在は、厚生労働省科学研究費で Providencia属菌の食肉の汚染状況について調べており、得られる成果は本菌の感染源解明や食中毒対策に役立つ可能性があります。
研究の背景
腸内細菌科細菌の一種である Providencia 属細菌は、現在少なくとも 10 菌種あることが知られています。そのうち、Providencia alcalifaciens を含む 3 菌種が胃腸炎や尿路感染症患者から分離されていますが、それらの病原因子については十分に明らかになっていませんでした。
本研究グループはこれまで、我が国の小児胃腸炎患者から新たに Providencia rustigianii を分離し、ヒトの胃腸炎の原因となる可能性や、本菌が食中毒の原因となる病原遺伝子(細胞膨化致死毒素※2遺伝子)の一部を保持していることを報告していました。
本研究では、この細胞膨化致死毒素遺伝子の全長や配列情報、毒素タンパクの病原性について解析を行いました。
研究の内容
解析により、新たに発見されたProvidencia rustigianii のみならず、今まで食中毒を引き起こすことが報告されていた Providencia alcalifaciensの細胞膨化致死毒素遺伝子もプラスミド※3上に存在することを発見しました。
また、本プラスミドは同種のProvidencia rustigianii だけでなく、Providencia rettgeri や大腸菌など他菌種の細菌にも伝播するため、毒素遺伝子を持ったプラスミドを得た菌も細胞膨化致死毒素を産生することを明らかにしました。
図 プラスミドを介した細菌間での病原遺伝子伝播の様子
研究のポイント
1.O-157 やサルモネラ菌と同様の食中毒原因菌として注目されている
Providencia属細菌※1。
2.一部の Providencia 属細菌での病原遺伝子の伝播方法を解明。
3.感染経路の特定や予防法の確立に向けて新たな知見を提供。
期待される効果・今後の展開
Providencia 属細菌の病原遺伝子はプラスミドを介して他の腸内細菌科細菌に伝播することから、今まで病原性がないと思われていた腸内細菌科細菌も含めてこの細胞膨化致死遺伝子を指標に調べていく必要が出てきました。さらに、このプラスミド上に他の病原遺伝子や薬剤耐性遺伝子が存在するかについても、今後解析していく必要があると考えています。
用語解説
※1 Providencia 属細菌…
大腸菌やサルモネラなどと同じく細菌の分類学上、腸内細菌科に属する細菌。
※2 細胞膨化致死毒素…
細胞を膨化させた後、さらに細胞を致死させるタンパク毒素。
※3 プラスミド…
細菌の染色体 DNA とは別に、生命活動に必須でない(病原因子や薬剤耐性)遺伝子を
保持し、菌種間を伝播する能力を有するものと有しないものがある。
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