未在 -Clinics that live in science.- では「生きるを科学する診療所」として、
「健康でいること」をテーマに診療活動を行っています。
根本治癒にあたっては、病理であったり、真の原因部位(体性機能障害[SD])の特定
(検査)が重要なキー(鍵)であると考えています。
このような観点から、健康を阻害するメカニズムを日々勉強しています。
人の「健康」の仕組みは、巧で、非常に複雑で、科学が発達した現代医学においても未知な世界にあります。
以下に、最新の科学知見をご紹介します。
成人の繰り返す重症胃腸炎の原因に食物蛋白誘発性胃腸炎がある
~原因食材を食べて数時間後の繰り返す腹痛や下痢には注意が必要~
草加市立病院(所在地:埼玉県草加市、病院長:矢内常人)消化器内科の渡辺翔医長、国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)の好酸球性消化管疾患研究室の野村伊知郎室長らの研究グループは、日本を含むアジアではまだ報告されていない成人の食物蛋白誘発性胃腸炎(Food protein induced enterocolitis syndrome: FPIES)について、その割合と、通常の即時型食物アレルギー(Immediate-type food allergy: FA)との違いについて研究を行いました。
その結果、甲殻類アレルギーと考えられる成人73名の内、8名(11%)がFPIES、53名がFAと診断されました。これは、甲殻類を食べてなんらかのアレルギー症状を引き起こす成人の中に、FPIESが潜在的に相当数存在することを示唆しています。また、成人FPIESはFAと比べて、腹部症状が出現するまでの時間と症状の持続時間が長い(中央値20.8時間)ことも分かりました。FPIES患者は強い腹痛や腹部の張り・苦しさを伴う胃腸炎様発作を何度も経験しており、半数のFPIES患者が発作中に死の恐怖を感じていました。それにもかかわらず、FPIES患者の約3分の1しか病院で適切な診療を受けていなかったことも分かりました。
本研究は成人のFPIESの臨床像を検討した日本初の報告であり、診断ガイドライン作成と救急医療における成人FPIESの診断アルゴリズム策定に重要な役割を果たすことが期待されます。
【成人FPIES(食物蛋白誘発性胃腸炎)の割合と臨床的特徴】
背景・目的
Food protein induced enterocolitis syndrome (FPIES)は反復する嘔吐や腹痛、下痢など消化器症状のみを呈する非IgE依存性食物アレルギーとされます(1)。
小児にて近年大変注目されていますが、小児における内視鏡を含む各種検査が難しいこともあり、病態はほとんど未解明です。成人でもFPIES例が潜在的に相当数存在し、原因として甲殻類が多いことがスペインやカナダなど海外で近年報告されました(1, 2)が、日本を含むアジアでは未報告です。FPIESは皮膚の発疹や呼吸器症状といった消化器症状以外の典型的なアレルギー症状に乏しいため、なかなか食物アレルギーを疑われず、多くの患者が診断までに長期間、多数の発作を経験しているとされています(2-7)。日本においては成人FPIESの疾患概念が普及しておらず、また専門として診察する部門も確立していません。そのため、成人FPIES患者が適切な診断・治療を受ける機会がないのが現状です。また、小児においてFPIESの重症例は即時型食物アレルギー (Immediate-type food allergy: FA)と治療が全く異なることが知られており、これらの似たような疾患を適切に鑑別・診断することは救急医療の観点から極めて重要だと考えられます。
そこで私たちは成人甲殻類アレルギー患者におけるFPIESの有病率と現状の問題点を明らかにし、成人FPIESとFAの臨床的な違いを評価することを目的に、日本初の疫学的研究を行いました。
研究概要
草加市立病院において甲殻類アレルギーと考えられる成人患者(73名)に対し、下記FPIESの診断基準や症状に関して電話インタビューを行いました。成人FPIESの診断基準は海外からの報告と小児FPIESの国際ガイドラインより決定しました。
<FPIESの診断基準>
原因食材の摂取で腹部の症状のみ(吐き気、嘔吐、腹痛、下痢症状)誘発される
原因食材摂取後、1~6時間経過してから症状が出現する
原因食材除去により症状は完全に消失する
原因食材ないしは同一グループの食材摂取により2回以上発作を経験している
以前、原因食材を無症状で摂取できていた
上記5条件を満たすものを成人FPIES例と定義しました。
また本研究では症状の原因となる甲殻類の種類にも着目し、成人FPIESの原因食材として伊勢海老やオマール海老などの大型の海老が多いこと、また患者の62.5%はすべての甲殻類を除去しているわけではなく、何らかの甲殻類を摂取可能であることがわかりました。
発表のポイント
1.成人の繰り返す重症胃腸炎の原因としてFPIESがあり、甲殻類アレルギーの中で相当数存
在すること(本研究では73名中8名、11%)が日本で初めて分かりました。原因が取り除
かれるまで患者は多くの辛い重症胃腸炎様の発作を繰り返しています。
2.臨床的特徴としては、腹部症状が出るまでの時間と持続時間が中央値20.8時間と長く、
強い腹痛や腹部の張り・苦しさを伴う発作が何度も起こることあげられます。
小児のFPIESに見られるような、反復する嘔吐はあまり見られませんでした。
3.FPIESは即時型アレルギーと違い、皮膚・呼吸器症状といった典型的なアレルギー症状が
ないため、食物アレルギーと気づかれないことが多くあり、本疾患の認知を広げ適切な診
断につなげていく必要があります。
4.本研究で得られた成人FPIESの臨床的特徴は、今後成人におけるFPIESの診断ガイドライ
ン作成や救急医療における診断アルゴリズム策定に役立つと期待されます。
今後の展望・発表者のコメント
成人FPIES患者は多くの辛い重症胃腸炎様の発作を繰り返し、半数が発作中に死の恐怖を感じていることから、今後本疾患の認知が広がり、医療体制を構築していく必要があると考えています。
本研究が明らかとした成人FPIESの臨床的特徴は今後必要となってくる成人FPIESのガイドライン作成や救急医療における診断アルゴリズムの策定に非常に有用と考えています。
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